「最近たっちゃんすっごい綺麗になった‥?」
「分かる‥なんか一皮剥けた感じするよね〜。あれじゃない?男でも出来たんじゃない?」
「そんな噂聞かないけど‥でもそしたら誰?」
「テレビで共演した若手俳優とか?雑誌で一緒だったモデルとかかも!」
「うぅわ‥ちょっと真ちゃんその顔ヤメテ‥」

部活帰りに参考書がほしいからと、真ちゃんに付き合って駅近くの本屋にきたら、店頭で雑誌を読んでいた女子高生から見覚えのある名前が聞こえた。‥その瞬間の真ちゃんと言ったら、ロボットみたいにびたっと足を止めて、なんでもなさそうな顔をして必死に耳だけを傾けている。確かに、最近の亜樹ちゃんは目に見えて綺麗になったよなあ。俺と真ちゃんと仲良くなる前より、なった後の方が断然綺麗。急に垢抜けた。‥その理由は、誰よりも1番俺が理解している。隣のこいつは、なんにも理解していないみてーだけど。

「真ちゃん、参考書は」
「買うのだよ」
「じゃあ雑誌コーナーで足止めしてんなよー」
「してないのだよ!」
「してるわ」

しょうもない嘘ついてんじゃねーよ。女子高生の後ろで突然大声を出したものだから、穢そうな顔で振り向いた彼女達と目があって、慌てて真ちゃんの首根っこを掴んで退避。女の子の冷たい目って怖いんだぞ、こいつ馬鹿か!そうして無理矢理引っ張った先の、問題集とか参考書のコーナーでふうと溜息を吐くと、むくれた真ちゃんがちらちらとまだ先程の雑誌を気にしているのが分かって、思わず大きく溜息を吐く。‥なんなの、自覚してんの、してないの?いやしてないか。むしろ聞いても否定されそうだ。

「さっさと買うモン決めろよー。腹減ってんだから」
「先に帰っていればいいだろう。ついて来い等と頼んだ覚えはない」
「相変わらずつれねえなあ」

大きな本棚から渋々と書籍をチェックする姿を確認してそっと離れると、男性用の雑誌コーナーへと向かう。興味があるのは雑誌ではなくて、その隣にあるスポーツ雑誌。バスケ用のシューズを新調したくて、機能もデザインも自分が好きな物がよくて、携帯で調べていたら今月の月バスに気になるメーカーのシューズが大きく取り上げられているらしい。

「お。‥お?」

手に取った雑誌。‥のその横に、旬の男性俳優と亜樹ちゃんが表紙を飾っている雑誌。思わず見たかったスポーツ雑誌をやめて、亜樹ちゃんが載っている方を手に取った。スゲー。いっつも普通に友達として仲良く(?)付き合ってたけど、やっぱ芸能人なんだなーって今更感動した。てかこれ、今期のドラマ特集してるやつじゃん。なんでそれに亜樹ちゃんが?

「‥‥ゲ」

ぺらりとページを捲っていくと、とあるページで手が止まる。学園恋愛ドラマの、主演の俳優を取り巻く女の子の1人に彼女の名前があった。1匹狼の謎めいた女の子役で、主演とヒロインを翻弄する小悪魔みたいな存在。うわあらしくねえーって思ってしまった。だって全然そんな感じじゃねえじゃん?1匹狼っぽいけど、意外と笑うし、真ちゃん前にするとただのそこらへんにいる1人の女の子だし。

これ真ちゃん知ってんのかな。まあ知った所でなんも変わんねーんだけど。本人から仕事の内容なんか直接聞いたことねーし、なんなら言う必要だってないだろうし、ほっといていいんだろうけどさあ。でも、こんな学園恋愛ドラマに出てる亜樹ちゃん見たら、仕事だって分かってても真ちゃんはあからさまに嫌な顔しそうだ。面倒くさいことになりそうなのが頭に浮かぶ‥。

「なにをやっている」
「うおあ!!」

なんだよもう参考書買ったのかよ!慌てて雑誌を閉じて表紙を裏返して、声がした方に振り向く。眉間に皺を寄せて、俺の行動を不審そうに見る目。別にそんなに怪しいことなんかしてねーし!そうだろ!怪しいのだよ。いいからいいからって真ちゃんの背中をぐいぐいと押して、さっさと外へ出るように促した。なんか食いにいこーぜ、もう限界。そんな俺の一声の後に、真ちゃんの腹も鳴った。

「俺ラーメン食いてえなー」
「高尾」
「んあ?」
「‥辰巳は誰かと付き合っているのか」
「‥‥いやそれはあれだろ、本人に聞けば?」
「それは‥‥そうなのだが‥」

うわー‥。マジかー真ちゃんー‥。らしくなさすぎてニヤニヤが止まらない。亜樹ちゃんのことを考えて、そのモヤモヤが晴れない感じ。それなんていうか知ってる?恋、恋だぜ、恋。ほんとすげーなあ、あの真ちゃんが恋してるんだぞ、本人よく分かってねーみたいだけど。早く気付いてくんねーかな。そしたらいくらでも助言してやるのに!

「‥電話してくる」
「嘘だろ!」

こいつマジか!マジで天然記念物か!たったそれしきのことで電話なんかする奴いねえっての!!!‥でもなんか面白くなってきたから黙って見ていることにしとこう。

2018.03.02

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