「まあそうだわなあ」

部活の予定を見て少しがっくり。黒子君の試合日、見事に丸1日埋められていた。隣でひょこりと日程の確認をしにきたトラが一言そう呟いて、思わずむうと頬っぺたが膨らむのが分かる。そんなの見れば分かるもん。‥でも行きたかったんだもん。

「こればっかりはどうにもね」
「‥うう、この日だけでも休みたい‥」
「そんなこと言うの珍しー。どんだけ黒子君の試合見たいのよあんたは」
「う!うるさいな!」

折角誘ってくれたのに、断る形になってしまうのが申し訳ないというなんというか‥。ぱふ、と日程用紙を閉じて周りを見ると、既に部活を始められる準備が出来ていて慌てた。私まだ着替えてもなかったし、なんならもうトラだって準備は万端なのに!ばたばたと体操着に着替えてサポーターをつけて、滑り込むように体育館へと猛ダッシュした。人の試合に行きたいとか考えたこともなかったのに、これが恋の力か‥?成る程トラも眼鏡先輩にこういう力を与えられていたわけかと変な納得をしてしまう。‥って、そんなことを考えている場合じゃない。部活の時はちゃんと部活に集中しないと。

「そういえばさあ」
「なに?」
「今度如月先輩と会うことになったんだけど一緒に来ない?」

ぴくり。中学の時の女子バレー部でキャプテンだった如月先輩と?そういえばこの間の練習試合で丁度再開したんだっけ‥。私は苦手な人だったから上手く避けてたけど、確かにトラは捕まってたような。トラだって先輩のこと苦手だったような気がするが、まさか会うことになっていたとは知らなかった。まあでも、それは是非2人の間で仲良くよろしくやっていてほしい。

「絶対嫌ですけど」
「‥って言うと思った」
「そっちこそ珍しいね。なんで今更?」
「いやあ‥」
「?」
「トリのこと聞きたいって」

目が大きくなって、ひゅうっと呼吸が一瞬止まった。高校に上がってから、トラとの間でもほとんど話題には出さなかった昔の思い出。大好きなバレーボールを、‥一瞬でも大嫌いになりそうだった苦痛の昔話。トリは、鴻 渚(おおとりなぎさ)という中学時代のチームメイトのあだ名で、私達が最高学年だった時のキャプテンで、エーススパイカーだった幼馴染だった。

「当たり前だけど如月先輩知らなかったらしくてさ。トリが入院してること」

そりゃそうだ。だってその頃には先輩もう卒業してたし。あはは、なんてなんとも気まずそうに笑うトラに対して、私も上手く笑えてなさそうな顔を歪ませた。‥怪我をしてしまってトリは入院したわけじゃない。彼女は、私達が怪我をさせてしまったのだ。無理をさせて、そして不運に不運を重ねて入院をしてしまった。あれから一度としてトリと顔を合わせてはいない。‥彼女は今だ治療中にして意識がない状態なのだ。もし会える状態だったとしても、後ろめたさがありすぎてとてもじゃないが会うなんてできない、‥と思う。

「あ〜‥ごめん‥‥嫌だった‥?」
「そう、いうわけじゃ‥如月先輩がトリのこと気にするのは当たり前だろうし‥」
「‥あれさ」

ぎゅう、と心臓の血管が詰まった気がした。あれって、どれのこと言ってるの?試合のことか、もしくはそれまでの過程か、‥それまでのトリへの重圧のことか。

「今思うと間違ってたよね」
「‥うん」
「ここでチームプレイってのしてて実感した。‥あんなのもうただの自己満だ」
「そんなこと分かってたよ」
「‥」
「それでもあの頃は勝つことへの執着心みたいな、そんなバカみたいなプライドしか持ち合わせてなかったんだから」

確かに。うちらもまだ若かったなー。おちゃらけたように笑ったトラは、それきり何も口にしなかった。若いったって、あれからそんなに経ってはいない。失敗。過ち。そんな軽々しいことではないからこそ、私達は思い出す度に重い鉛をずるりずるりと引き摺っているみたいだった。

2018.02.12

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