「そうですか‥」
「ごめんね、折角誘ってくれたのに」
「しょうがないですよ、部活ですから」

もぐもぐと購買のパンを食べる黒子君にあのね、と声をかけて私も持ってきていたおにぎりを頬張った。しょうがないですよとか言いながら、ちょっぴり目元を下げて残念そうにする顔を見ると、物凄く悪いことをした気分になるじゃないか。‥駄目だなあ、最近の黒子君には勝てる気がしない。個人的な問題というだけなんだけども。

「また誘いますね」
「うん‥」
「そんな凹むことなくね?」

ごくんと飲み込んで、はあーっと大きな溜息を出すと、私と黒子君の様子を隣でじっと見ていた火神君が規格外の大きいパンにかぶり付きながら言った。だから、今回も!行きたかったんだってば。その残念な気持ちを分かってほしいとばかりにデザートのみかんを投げつけた。ぽこんと頭に当たる前に手で受け止めやがって。さすが反射神経いいな!

「お、サンキュー」
「あげません」
「なんだよ」
「凹むでしょ、そりゃ勿論これからも公式試合なんて何回もあるんだろうけど、今回のだって行きたいの!」
「女子ってよく分かんねーな」

いいもん。火神君が私の気持ちを理解してくれるなんて最初から思ってなかったもん。ほらよ、と投げつけたみかんが返ってきて、また規格外のパンにかぶりついた火神君はそういえば黒子よお、なんて言いながら私から黒子君を奪い取っていった。まだ喋ってる途中だったのに。内容的に会話は終了してたけど。途中だったのに!

2人で話している内容はもちろん私には分からないことだらけで、バスケのこととそれに共通する人物のことと、少しだけ眼鏡先輩‥じゃなかった、日向先輩のこと。話題があれば話だって盛り上がるのに、いかんせん私と黒子君なのだ。共通点が帝光中学校ということしかないし、なんなら私は中学時代の黒子君を全く知らない・覚えてないという状況なのだからネタもない。ずるい、火神君。高校からの付き合いの癖して。

「‥それは別に2号のせいじゃないと思いますけど」
「なんでだよ。犬くせーんだから2号しかいねえだろ」
「火神君がタオルを置きっ放しにしてるのが悪いんですよ。2号は火神君に渡してあげようと持ってきただけでは」
「そんな賢くねーだろ」
「火神君より賢いですね」
「あ!?」

ひ、こわ。そしてそれに対して全く物怖じをしない黒子君は、鬼の角でも出ていそうな火神君をひょいと避けてペットボトルに口をつけていた。‥というか、急に出てきたけど2号ってなんだ、2号って。犬くせーから2号って言う意味が分からない。

「ねえ黒子君、2号ってなに?」
「結構前に段ボールに入ってた仔犬見つけて、今名前をつけてバスケ部で飼ってるんです」
「飼っ‥へ‥ぇ?そ、そんなのアリなの‥?」
「まあアリにしちゃってますよね」
「無しだろ!」

飼ってるって、どこで飼ってるんだろう?餌とか、お金がかかるはずの経費はどこから?細かい所はよくわからなかったけど、お世話はローテーションで本当に部員で回して見ているらしい。‥段ボールに捨てられていたなんて酷いものだ。

「放課後の部活前でよければ見に来ます?」

聞けよ!そんな火神君の必死のツッコミも無視して、ぽふ、と笑った黒子君。仔犬。‥仔犬かあ。黒子君と仔犬って最強じゃん。癒される以外に何があるというのだ。いいの?という言葉に、もちろんと続いて、隣で話を聞いていた火神君はげんなりとしていたが私のテンションは上がっている。

「とっても可愛いですよ」

何犬?小さいわんちゃん?可愛い?怒涛の質問に答えた火神君は「‥黒子の分身」とだけぼそぼそと呟いて、大きく溜息を吐いた。‥黒子君の分身?似てるってこと?どういうこと?

「なんか、僕に似てるらしくて」
「だから2号な。‥テツヤ2号とか言われてっけど」

待って。‥それ私1発K・Oじゃないですか。

2018.03.08

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