「湿布とかなんかいんねーの?」
「大丈夫大丈夫、ただの疲労だよこんなの」
「おいバカ、ちゃんと横になってろ」

急に過保護になっちゃって何事だ。連れて来られた先の保健室で、担当教員がいないからってガサガサと勝手に戸棚や引き出しを漁る青峰は泥棒みたいだ。出したらちゃんと片付けてよね、机に色々散らばってるから。ほらよ、と出してきたのは冷蔵庫に入っていたスポーツドリンクらしい。ベッドの横に椅子を持ってきてどかりと座ってきた姿は随分と偉そうだった。

「ごめん、ありがと」
「あ?」
「ちょっと助かった」
「ちょっとだァ?」
「‥‥嘘、だいぶ」

合わせていた視線を下げて自分の手元に向けた。‥正直、本当にムカついたし、こんな奴らに負けたくないと思ったのは確かなのだけれど、あからさまにああいうイジメみたいなことをされたのは初めてだったからほんの少し怖かった。そこに突然現れた青峰の存在。‥めちゃくちゃほっとしたし、安心した。

「いつも気ィ強い癖に桜もああいう弱いとこあんだな」
「明日には忘れて」
「気ィ強いのも嫌いじゃねえけど」
「そりゃどうも」
「‥あんま心配させんなよ」

はあ?いやいや。‥だってさっき、心配してるのか聞いたらうっせえって、バカって言ってたじゃん。ぐりんと首を動かして彼へと振り向くと、それと同じくして大きな掌が頭の上に乗っかった。ぐりぐりとアオを撫でていた時みたいな感じじゃなくて、もっと優しい。髪の毛を優しく滑るような手付きは凄く暖かくて、‥ついでに凄く恥ずかしかった。

「な、なに‥」
「ああいうの見てる方も胸糞悪ィな‥誰かなんとかしてくれるような奴いねえの?」
「キャプテン‥くらいかも」
「‥男?」
「あ、うん」
「男かよ‥」

キャプテンが男だと何か悪いのだろうか。軽く舌打ちをした青峰は先程までの優しい手付きをやめて、私の頭をぐしゃぐしゃに掻き乱す。ああ、もういいよどうにでもしてくれ。‥その時丁度カーテンの向こう側から扉が開く音がして、人が入ってくるような声がした。びくり。青峰の掌が一瞬固まったと思ったら、突然ばさりと布団が捲れ上がったのだ。

「っむ‥?!」
「ちょっっっと静かにしてろよ‥‥!」

有無を言わさず、私の寝ている布団に入り込んできた規格外の身長。驚いた拍子に出そうになった声は先程まで私の頭を撫でていた手で塞がれた。なにやってんの!?馬鹿じゃないの!?誰が入ってきたの!!明らかにもこもこしすぎの布団の中で、必死に身体を折り畳む彼が何かに逃げているのはよくわかったけど、どきどきばくばくと心臓が酷く煩くてたまらない。げし、と蹴っ飛ばしたい衝動にはかられている。

「青峰ェ!!‥って、青峰じゃねえ、悪い‥」
「い‥‥イエ‥」

あ、前に体育館で見た人だ。ジャッとカーテンを開けられて急に怒鳴られた時、成る程青峰はこの人が来たことに逸早く気付いたのかと納得。ここにいますよ、と言えればよかったのだが、逆にこんな状況下で言うと色々と勘違いされそうで言えなかった。

「‥熱か?大丈夫か、先生いねえのに」
「だ、大丈夫です‥もうすぐ、友達、来ます」
「そうか。お大事にな」

名前も分からない見知らぬ人はそう一言残して足速に去っていく。‥怖い人ばかりだと思っていたけど、そうではないらしい。

「‥柔らけえ」
「は、‥いや、ふざけんな‥!!」

ふにゃり。青峰の先輩が出ていってすぐ、胸元に嫌な感覚。いや、私が少しでも身動いだから悪いのかもしれない。それでもこいつが本当に驚いたような顔をして私のそれを見ていたものだから、今度こそ本当に腹を蹴っ飛ばしてやった。

2018.02.10

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