この男、だいぶハイスペックらしい。

「‥部屋綺麗なのはともかく、トロフィーとか賞状とかなにこれ?すごいね」
「僕は勉強を一緒にするつもりで呼んだんだけど」

うるさいなあ。そんなこと分かりきってるってば。きょろきょろと周りを確認して、おおよそ男子生徒の部屋とは思えないシンプルで綺麗なお部屋に唖然とした。所々かけられている賞状とかトロフィーがまるでインテリアに見える。そうして本棚に並ぶ書籍と言えば、難しいタイトルの某有名小説だったりだとか、某超有名大学の参考書だったりとか、たまにバスケに関する雑誌。‥だけ。面白味もなんともない、貴方一体いくつなんですか?と問いたいものばかりだ。

「赤司君って‥やっぱ見た目通りというか真面目だよね‥もう大学のこと考えてるの?」
「一応ね。今から準備をしておくのは大事なことだと思うよ」
「いやまあそうなんだけどさ‥」

さっきまで少しばかりドキドキしていた自分がバカみたいだ。赤司君は本気で勉強しようとしているだけなのに、‥っていうか別に私をわざわざ呼んで勉強なんてしなくていいじゃん。つくづく詩栄も余計なことをしてくれる。ちらりと横目で赤司君を見てみると、机に座って既に教科書や参考書を開いて準備を終えていた。やる気満々か‥。

「1人の方が捗らない?」
「賑やかなのも慣れているよ」
「へえ、意外‥」
「中学の頃よく赤点を取っていたチームメイトがいてね。大事な試合前に赤点を取ってしまうと試合に出れないから教えていたんだ」
「そりゃー大変だ‥」

うちの部活はどうだったかなあ。昔の記憶を呼び起こしながら、案内された場所にそっと腰を下ろす。そんなに長居するつもりはないから、2・3ページ進んだら眠くなったって言ってさっさとお暇しよう。その方が赤司君だっていいでしょ?勝手な解釈かもしれないが、そもそも私達はそんなに仲良くないのだ。‥勝手に彼女にされたけれども。

かりかり。無言になったまま時間が過ぎていく。シャーペンとか時計の針の音しか聞こえない。私はといえば少し面倒な問題に当たっていて、ちょっとばかり2ページ目で立往生していた。こんな時に限って引っ掛け問題なんて出て来るなんて。無言の時間にも2人きりなのも中々に耐えられない‥。

「‥‥赤司君てさ」

つい。‥というか、無言に耐えられなくなってなんとなく口をついた。そうそう、私はキスまでされている。赤司君が女の子を弄ぶような人じゃないと思うけれど。‥だけど実際、私が好きとかじゃない気もする。こっちはだいぶ集中力も切れつつあるが、目の前の彼はずっと教科書に目を向けたままで。ちょっとだけ邪魔してもいいかな。‥そんなつもりでそっと顔を除いてみたのだ。すうっとしていた目元が少しだけ丸くなって、‥あ、こっちに気付いた。

「なんだ?」
「いや‥あの、私が好きだなんて到底思えないというか‥」
「何故?」
「赤司君、面倒な付き合いとか嫌いそうだし」
「フフ」

何笑ってんのよ。ほんの少し顔を緩ませて笑ったと思ったら、ぱちりと目が合った。目があっただけで全部捕らえられたような、ぎゅっと心臓を鷲掴みにされたような、居心地の悪い感覚だ。‥特にその左眼は何を考えているかが分からない。

「好きだよ」
「‥っ」
「‥という言葉では信用できなかった?」
「わか、んない‥」
「女性は難しいな」

難しいのはそっちだ。何考えてるか全然分かんないんだもん。溜息を吐いて消しゴムを取る為に手を伸ばす。こつん。そうして伸ばした先で、赤司君の指にも軽く触れてしまう。はずみでぱっと手を引いてしまったけど‥いや、これ私の消しゴムだよね?

「少しは意識してくれているようだね」
「そんなことはないですけど!」
「顔が赤いよ」
「わっ」

ぱっと引いた手を強引に掴まれて、掌に柔らかい感触がした。何をやってるんだという声は驚きのせいで出てこなくてつい固まってしまう。鼻から上の半分だけ、私の掌に隠されていない彼の顔が見える。優し気に細められたような右眼と、こちらの様子を伺うような左眼。不思議な人だなあと無理矢理に頭の中を別のことで一杯にしながら、熱くなりかけの顔を冷ます。‥掌にキスだなんて、漫画の王子様くらいしかしないと思ってたよ。

2018.02.04

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