「もうすぐ中間考査とか信じられる?」

私の部屋でポテチをばりばりと食べながら寝転んでいる詩栄が、思い出したように口にした。いやそれよりも、中間考査終わってすぐ地方大会もあるし、BPの大会は中間考査の前なんだよな。そっちの方が重要。自慢ではないけど成績は良いし、というよりも勉強は1人でどうにでもなるし。だけど大会は私1人じゃないから。

「詩栄は慌てて勉強しすぎなんだよ。予習復習って実は時間短縮になるんだから」
「うえ。これだから頭良いやつって嫌いだわ」
「それより詩栄、白に上がれそうなの?」
「いやどうだろ‥まだ難しいかな‥私としては頑張ってるんだけどやっぱ洛山ってレベル高いもん。ロングトーン1つでも妥協しないし、パート練とかすると私と音の鳴りが全ッ然違うんだよね‥既に2年生と3年生の差が凄い‥」
「サックスパートの白って皆3年生だもんね」
「ソプラノでは絶対負けるか!って思ってたんだけどなあ‥あんなキレーな音出されたらたまんないよ」

詩栄の通っていた中学もそこそこ強豪だったし彼女だって上手だったが、少しばかり凹む姿を見たらやはりだいぶレベルの差があるらしいと、持っていたシャープペンシルを机に置いた。

「まあでも詩栄。まず中間考査抜けないと‥赤点の人は補修終わるまで部活停止だよ」
「そこなんだよーーー!!!!なんで部活停止なのさ!!!酷くない!?」
「さすが洛山って感じだよね」
「そこ納得しない!!」

ベッドの上に置いてある、とても柔らかいお気に入りの丸い抱き枕をぼふぼふと殴りながらまたポテチを頬張る詩栄に溜息を吐く。ああもう‥あとで詩栄の周り掃除しなきゃ‥とりあえず今やっている所の問題だけ終わらせよう。少しだけ残っているポテチに私も手を伸ばしてシャープペンシルを持ち直すと、ふと机の上のiPhoneが震えた。

「なに、電‥‥あ、赤司君じゃん!」
「いいよ今忙しいし」
「ポテチ食ってるだけの奴が何言ってんのよ」
「こっちの台詞、あっ!!?」

スイーッとiPhoneを勝手に操作した詩栄がにっこりしながら私の手にそれを乗せた。おい、勝手に通話開始させるとは一体どういう了見だ!しかしまさかこの状態で通話終了はさせられない。じとりと詩栄を睨みつけると、悪びれもない様子で最後のポテチに手を伸ばしている。‥くそ、こいつめ。

「‥‥もしもし」
『やあ、今日はもう部活終わったのかな?』
「今日は休みだから友達と勉強してます」
『そうか。よかったら一緒に勉強しないかと思っていたんだが』
「申し訳ありませんね」
「いいよいいよ!私との勉強なんていつでもできるんだから!」
「ちょっと待て詩栄こらぁ!」
『ありがとう石川さん。由衣、僕は食堂で待ってるから』
「はあ!!?」

いやいや、ふざけんなよ。慌ててiPhoneを取り返したが、時すでに遅く通話は終了済み。メールでお断りの連絡をしようとしたが、それは詩栄に阻止されてしまった。てか勉強教えてって押しかけてきたのそっちじゃん!

「もう勉強教えないからね!」
「そんなこと言わないでよ〜!つかあんたは多少遊ぶべき!ほらほら行くよ!」

多少遊ぶべき?なにそれ、私には全く必要性を感じないんだからほっといてよ!そして無理矢理立たされた挙句、無理矢理勉強道具を持たされた私は部屋から追い出されてしまう。にこにこ顔で背中を押してくる詩栄をばしばし叩いて牽制。‥まあ全く意味は無い。

「‥てか赤司君に何を教えてもらえと?」
「由衣のその発言すっごいむかつくっていうのは自覚しといてもらっていい?」

いや、なんで私が怒られなきゃいけないんだ。

2017.09.18

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