結局赤司君に少し教えてもらって、今日の2人の勉強会が図らずも身になったことは認める。教え方も上手だし、ノートの書き方もとても分かりやすい。ついでに言うなら字も綺麗だ。アメリカにいた頃に勉強を教わっていた先生も字が綺麗だったけど、こう、なんでも出来る人は本当になんでも完璧なんだな。めちゃくちゃムカツク。

「‥あ、そろそろ私部屋に戻らなきゃ」
「もうこんな時間か‥由衣は飲み込みが早くて助かるな。つい色んなことを詰め込んで教えすぎてしまったよ」
「違うよ、赤司君の教え方が上手なんだって」
「謙遜だな」
「そっちこそ」

んんっと軽く伸びをすると、ぱきりと骨が鳴った。勉強をこんなに集中してやったの久しぶりかもなあ。じゃあ、なんて立ち上がると痺れた足がよろけて、近くにいた赤司君に思わずダイブ。あ‥危なかった‥。一歩間違えたら赤司君の布団にダイブするところだ。

「大丈夫か?」
「ごめん、ちょっと足痺れたみたい‥」
「少しこっちに座っていろ」

ひょいっと持ち上げられて、赤司君のベッドの端に降ろされる。意外と面倒見が良いようなところは、先程聞いた中学時代のバスケ部のチームメイトが原因だろうか。それとも元々だろうか。分かってなかった部分だったし、実際かなり助かったかも。‥ああ、やばい、痺れてる痺れてる、痛い。ぶつぶつとぼやいていると、その隣にぽすんと座ってきた彼に思わず目が点になった。なに、なんで隣に座ってくるの‥?

「‥なに」
「?」
「な、なんで横に座るの‥?」
「駄目なのか?」
「いや‥いや、ここだって‥ベッドの上‥」
「ああ、‥なにかされるかもと期待しているのかな?」
「期待なんか全くしてないから!」

人の良さそうな笑顔で笑ったかと思ったら、そのまま肩を押されて背中に柔らかい感触がした。思ったよりもふかふかだ、と思った直後に顔の横を通過した腕。恐る恐る上を向けば、じいとこちらを見つめてくる赤司君が先程とは違って面白そうに笑っていた。‥こいつ、揶揄ってんな完全に。そんな余裕そうな顔にムカついて、大きく息を吸うとふーっと顔に思い切り息を吐いてやった。

「‥生意気なことをする」
「彼女にしたくなくなったでしょ?」
「逆に唆られるね。無理矢理にでも落としたくなるよ」
「変な趣味‥てかどいて、っ」

手で押し返そうとしたら、それを阻んで手首を押さえつけられた。‥その瞬間、むにっと目の前が真っ暗になって押し付けられた唇。この感触久しぶりだ、なんて最初は呑気に思っていたけど、私またキスされてるじゃん!!ちょっと、やめてよ!そんな気持ちで顔を振ってみようとするけど、噛み付くみたいなキスに動くことができなくて、泣く泣く彼の唇を受け入れることしかできない。

「‥息を止めるな、鼻でちゃんと息をしろ」

息の仕方なんてこっちは分かんないんです!半分酸欠の頭で文句をずっと並べているが、もちろん口から出ることなんてない。空気を肺に入れる為に開いた口の中にも赤司君のぬるぬるした舌が入ってきて、色んな所を何度も撫でられるみたいにぬるりと何度も這って。‥もう何がなんだかよく分からなかった。私勉強しにきただけだったのに、さっさと帰る筈だったのに。痺れていた足はもう治っているのに、全身の力が抜けてるみたいに動けなかった。‥背中がぞくぞくする。

「‥舌が弱いんだな」

口の中で散々暴れ回っていたそれが厭らしい音を立てて離れていく。こんなの絶対嫌なのに、なんで反応してしまうんだ。なんだか弱味を握られたのが悔しくて睨みつけてやると、また近付いてきた唇に思い切り噛み付いてやった。

「っつ、」
「わ、私悪くないからね!そっちが悪いんだから!」

じんわりと赤くなっていた唇を見て謝りかけたけど、元はと言えばそっちのせい。噛まれた瞬間に緩んだ彼の手を振りほどいて、バタバタと部屋から飛び出した。てか、こんなこと前にもあったような気がするけどと何度も腕で口元を拭っていると、掴まれた腕からも赤司君の匂いがするから、さっきの感触が勝手に再生されて‥‥もう、最悪!ほんと最悪だ!!

2018.02.26

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