「戌飼が今日からバスケ部のマネージャーとして入部することになった」
「おお〜」

あれ、私なんで体育館でこんなこと言ってるんだろう。隣にはにこにこ顔で竹刀を持っている荒木先生がいる。いつからそんなことになったんだ、いつから。固まったまま硬直する私に、皆不満の顔を浮かべることなく歓声と拍手が聞こえてくる。ちょっと待って。なんでよ、だからなんでこんなことに!?ああ、なんか段々頭痛くなってきた、目眩もしてきた。

「全然歓迎するけど〜?」

歓迎とかしなくていいんだけど!!













「‥っちょっと待ってホント勘弁して‥」

ばっ!と飛び起きた時には既にアラームが鳴っていた。どうやら悪い夢を見ていたらしいことに気付いて大きく息を吸うと、煩い音を止めて深く息を吐く。夢か‥そもそも夢でないと困る、あんなこと。合宿に無理矢理連れてこられた初日、つまり昨日。久しぶりに大量のご飯を作ったからきっと疲れが溜まっていたんだ。あああ、本当にとんでもない夢見た‥。

「5時‥」

いつも起きる時間よりだいぶ早くて引いた。それもその筈、朝ご飯を作るように頼まれているからこんな時間にアラームを設定したんだけど、そもそもこの時間に起きるのが私だけってことに先ずイラッとする。‥だけどそんな文句も今更言ってられないか。支度しないとご飯がないわけだし。用意していた(というかされていた)ジャージに袖を通して軽く伸びをすると思わず出たのは小さい欠伸。お金の請求でもしてやろうかな。‥そう思うのも無理はない筈だ。

「おお、おはよう」
「え」
「コラ、挨拶は」
「お、はようございます‥?」

がらり。昨日何度も訪れた大きな台所に、何故か私よりも早い時間から荒木先生が立っていた。何故。っていうかなんでこんな所にいるの?思わずぽかんと開いてしまう口が塞がる前に、先生の持っていたフライパンからじゅう、と音がした。

「お前だけにやらせるつもりなんか最初からないに決まってるだろ」
「そんな風にしか見えませんでした、けど‥」
「一応こっちから頼んでる身だからな」
「そんな自覚あったんですか‥」
「いいからそっちの鍋に味噌溶いてくれ」

は、はい。反射的に返事をすると、顎で差された先の鍋に手を伸ばす。いつから居たんだろうかと思っている間に食事の準備は手早く済まされていった。ちゃんと料理出来るんだなこの人。失礼なことを考えているのは自覚しているが、そう思わずにはいられない。

「今日はスコアの付け方教えてやるから」
「はい?」
「折角来たんだ、覚えて損はないだろ?」
「メリットもデメリットも思いつかない‥」
「デメリットがないって言うんだったら問題なさそうだな」
「ないと言うわけでは」
「ウチは楽しいぞ、問題児もいるけど」
「‥なんで頑なに、」

私を誘うんですか。だが結局その言葉を飲み込んで、無言で味噌溶きに集中することにした。‥部活に明け暮れる人達が嫌いではない。そういうことではないのだ。思い出してしまうから。‥自分も昔はそういう部活に明け暮れるその中の1人であったことを。

2018.01.25

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