「都1年大会」
「おう、で、その時のリーダー任せるわ」

とある日の部活後、キャプテンに呼ばれて部室に顔を出していた。まさかキャプテンまで私をいじめの対象にする気じゃないでしょうねとほんの少しだけ勘繰っていたが、どうやら完全に思い違いだったようだ。椅子に座っていたキャプテンの手には何枚かの資料ががさりと握られている。‥そうして成る程大会が近いのかと知らされた時には、ちょっとだけ心が踊った。

「私がリーダーでいいんですか」
「他の1年は納得してたぞ?」
「いつの間に多数決を!」
「うっせ。つか別にいいだろ、1年大会なんだし2年にも3年にもなんも言われねーよ」
「どうですかね‥」
「ビビってんの?」
「面倒だなって思ってるんですー」

てめーキャプテンの俺に面倒くせえとか言ってんじゃねえぞ。べしっと肩を叩かれて思わず溜息。それに対してもまた叩かれた。

「今の1年はとりあえず皆ビビっちまってるから、お前くらいしかできるやついねーの。つーわけで頼むな」
「ええ‥」
「ああでも、俺も一応引率で行くから」
「だったらキャプテン!」
「やんねーよ。来週辺りで1年の出る種目決めるから、お前なんとなく考えとけよ」
「えええ‥」

溜息をまた吐きかけて飲み込んで、ぎろりと睨みをきかせるキャプテンから視線を逸らす。なんか押し付けられたような気しかしないけど、‥。まあいっか、面倒な先輩達がいないなら。













「火神、大我‥」
「あれ?さっちゃん何やってんの?うわ、」
「桜ちゃん」

筆箱を教室に忘れてきたことに気付き、部室から出て取りに向かっている最中だった。体育館の外に見慣れたピンク色が見えて話しかけると、ノートの半分に書かれた綺麗な文字。勉強でもしていたのかと思ったけど、内容が見えたことで首を傾げるしかない。不思議なパラメーターみたいな図と人の名前、‥なんか色々書いてある。だけどその次のページはほとんど真っさらだ。

「それなに?」
「え?あー、部活のノート。メモっていうか、情報収集用のって言ったらいい?」
「ええー‥マメだね‥‥‥てかすご!」

前のページをちらりとめくってみて驚いた。文字がぎっしりだ。赤丸とかしてるところもあるし、‥なんか性格とかまで書いてあるんだけど‥ここまでどうやって収集してくんの‥?

「この赤丸の火神大我って人はもしかしてめちゃくちゃ上手い人だったりとか?」
「まだ分かんないけど注目選手かな。これからこのページは埋める予定なの」

一体どれくらいの期間を使って埋めるのか。分からなかったけど、さっちゃんならいとも簡単に埋めてしまいそうだ。そんな名前の下には"誠凛高校、テツ君と同級生"と書いてある。誠凛高校‥‥って、確か‥。

「‥てか青峰と火神ってすごい対極的な名前だよね」
「急にどしたの‥え、何が対極的?」
「青と火」
「‥桜ちゃん、それ多分対極じゃないと思うよ‥?」
「え!なんで!?」
「青と赤とか火と水とかだったらまあ、分からなくもないんだけど‥」
「‥‥あはは‥ぁ、」

久々に頭悪いって恥ずかしいと思ってしまった。乾笑いで誤魔化しているとタイミングを見計らったように携帯が鳴る。画面の表示は同期の陸上部員の名前。‥なんだろうか。小さく首を捻ってボタンを押した。

「どしたの?」
『未藤さん、‥まだ、学校‥?』
「?うん」
『あの‥3年生が水飲み場で待ってるって‥』
「‥‥。わーかった、行く」

オドオドとした声は、多分近くに3年生がいるから怯えているのかもしれない。今度は3年生かあ‥なんてぼんやり考えて溜息を吐くと、さっちゃんの心配そうな瞳がこちらを見ていた。

「‥なにかあったの?」
「んーや。ちょっと用事あるから先帰るね。お疲れ!」
「あ、桜ちゃん‥!」

なんのお呼ばれかなあなんて、良い予感なんて全くしないまま教室を出る。なんもされなきゃそれでいいかなんて他人事にも程があるけれど、それくらい適当に考えておいた方がまだ楽なのだ。あーあ、お腹空いた。

2018.01.21

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