「ねえ、聞いた‥?」
「うん、あの子でしょ、赤司君の彼女って」
「らしいよ‥」
「‥まあでも、赤司君が選んだ人だしね」

おい。本当になんなんだ。どこまで噂が広がっている。まだあれから3日と経っていないぞ。しかも赤司君が選んだ人だからって消極的だな。皆もっと頑張ってよ!!私は断じて肯定なんかしていない内容なのに、なんで周りが納得しているんだ!!

「よっ赤司君のカーノジョッ」
「詩栄許さない」
「急に!?私なんも関係ないじゃん!!てか、噂本当なの?本番で何があったの?もう聞きたいことありすぎて私キャパオーバーなんだけど」
「キャパオーバーしてるのは私だよ!!なんでこんなことになってんの!!」
「いや私が聞きたいんだけど。ったいたい!」

楽しそうに絡んできた詩栄の首根っこを掴んでガンガン揺らし、イライラを発散させた。しかしこれで全て発散はできない。赤司君は本当に、なんのつもりで、こんなことにしたのか。私が好きとか今更ながら嘘くさいんだよ!!‥という暴言は流石に本人の前では言えないけど。てかなんで私もあの時ドキッとか少しでもしたんだ。心臓ばかじゃないの?割と本気で思っている。

「で、噂はマジなの?」
「んなワケないでしょ!!」
「だろうねー。ミイに限ってないわ。まあでもいいんじゃない?これを機会に軽い気持ちで付き合ってみたら?」
「そんな軽い気持ちで付き合うとか嫌です」
「じゃあちゃんと考えて付き合ったら?」
「無理。ちゃんと考えて無理」
「はあ‥」

ちょっと。なんで溜息吐いたこの子。そもそもこれ、私が悪い案件なの?ねえ。答えてくれる人はいないので、もちろん自問自答だ。あれから浅川さんも部活中えらく凹んでたし(ただし演奏に支障はない所は流石の一言)、赤司君に関しては間違いを正す気はない。というか、赤司君が言い出しっぺだから当たり前と言えば当たり前か‥。

「いいじゃん。容姿端麗、文武両道、まさに知勇兼備!いいとこ物件にも程があると思うよ〜?あー羨ましい」
「いいとこ物件なんて自分で決めるわ!」
「てか赤司君が駄目なら一体どういう人がタイプなわけ?」
「考えたこともないから分かんないけど言っておく。勝手な奴はタイプじゃない」
「へえ」

へえじゃない。どうでもよさそうに言うな。

「‥てか察してくれる?」
「何を?」
「おはよう由衣、石川さん」

出たな、赤司征十郎。颯爽と現れた彼の周りには、こそこそと女子の群れが見える。私は見世物じゃないぞ。だけど、挨拶を無視するなんて酷いことはしない。私は優しい奴だからね。いやその優しさが仇となっているのか?とりあえず声には出さずとも頷くだけの挨拶をした。

「まじでか‥名前呼びとは恐れ入った‥」

詩栄さんその"頭真っ白になった"みたいな顔するのをやめて。こっちも頭真っ白になる。

「由衣?‥‥どうしたんだ?」
「‥なんでもないです」

赤司君の顔を見たらつい唇に目がいってしまって、なんだか無性に恥ずかしくなった。人生初キス。つまりファーストキス。あんな奴に奪われるなんて思いもしなかった。もっとちゃんとした所で、ちゃんと好きな人としたかったと思うのはしょうがないことじゃない?慌てて顔を逸らしたけど、なんか逆に変に思われていたらいやだ。‥でも、だからと言ってまた顔を赤司君に向ける勇気もない。私ばっかりドキドキしてるとかおかしくない?普通は好きになった方がドキドキするもんだっつーの!

‥あれ?その定義に物凄く違和感を感じる。

2017.05.04

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