金管楽器が高々と鳴り響く。安定した音程は太い音になって、多彩な動きで周りを翻弄する。見る者全てを圧倒し、そこからの木管楽器のハーモニーは繊細で美しい。さすが強豪なだけあって、周りの目も釘づけだ。‥と、そんな悠長なことを考えている私も本番真っ只中なわけだが。

全員での動き出しに合わせて、私もフォワードマーチを始めること数秒後だろうか。いつものように斜め上に顔を上げると、洛山高校男子バスケのジャージがずらりと並んでいた。おい目の前に佇んでいるんじゃない。奴がいたらどうしてくれるんだ!奴?奴とはあの人しかいないだろう。‥駄目ださっきの思い出したら死ぬ。

天才はやはり変わった人物しかなれないものなのだろう。そう勝手に解釈したわけだが、ちょっと待てあれが告白だったってことは、‥‥もしかしてちゃんと返事をしないといけないのだろうか。いやむしろ彼の思考は分からないから単に伝えたかっただけかもしれない。成る程。付き合う気はないが君はとても好きな人なんだよ、分かってくれるかい?的な?

‥分かるかボケ。

「‥オイ、集中しろ」

オーボエの静かなソロが会場を包み込む最中、こっそりと隣の松阪先輩が声をかけてきて、私はちらりと視線だけを向けた。‥バレてる。視界に捉えた先輩の顔は、帽子を深く被っているから目の様子こそは伺えないけど怖い真顔だった。言い訳なんて言うつもりはないが奴のせいだ、私のせいではない。‥‥って言ってる自分に少しだけ嫌気がさした。

「すみません‥」
「また哉太関連だったらシメとく。それ以外だったらマジでフザけんな。だらけんのと余裕は違え。気ィ引き締めろ」
「‥はい」

大変ごもっともでございます。構えていたスティックを握り直して、体に篭っていた息を全部吐き出した。改めて斜め上を見据えると、ひらひらと手をふる金髪の人と、筋肉モリモリの人と、実渕先輩と、‥‥赤司君。

「‥‥‥よし」
「センターしっかり揃えろよ」
「大丈夫です」

至極当たり前のことを言われて反省。やはり、上がいるというのは悪いこともあるけど良いこともある。‥し、むしろ、この引き締まる感じ嫌いじゃない。後でブツブツ言われるかもしれないけど。そういえば私何かを忘れている気がする。‥なんだっただろうか。なんか割と大変なことだった気がするけど。













「だからぁ!あれほんと俺関係ないって!」
「いーや!巴は優しいからね!クソ哉太を庇っていたとしてもおかしくない!!」
「お前ホントクソヤローだな。本番前に何やってんだ?輪切りにしてやろうか?ァ?」
「輪切りってなんすか!?怖いしちょっ、フルストロークやめて痛い!!菜美さん痛い!!」

本番後の楽屋裏では、規矩先輩が上層部2人に懲らしめられていた。助けてはあげない。そんなことするわけ無いし、むしろ今後の為に精一杯シメておいてほしい。って、いつもシメられてるか。

「‥ん?」

視線。視線を感じた。しかも怖いやつ。そうしてきょろきょろ見渡すと、角でマレット片手に見つめる瞳と目が合った。

「巴さん‥‥‥いいなあ」

ビシッ。体が硬直した。さっき感じた違和感はこれだ。何か忘れている気がする。それは赤司君のストーカー疑惑のある、浅川さんの存在。

‥‥ちょっと待て。いいなあって何が!!?

2017.03.24

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