「‥冗談はやめてよちょっと‥」
「僕は冗談が得意ではないんだけど?」

いやまあでしょうねって感じなんだけどさ。なんでこんなに私をつついてくるのかと思ったら、それはそれでなんか合点いったけども。いや冷静に分析している場合ではない。この人本当に私が好きなのか?でも冗談得意ではないから本気ってことか?それに対して私はなんて答えたらいいのか。ああ、恋愛感情での好きじゃないのかもしれない。そう考えたら先程よりもしっくりきた。

「えーと‥まあ友人としてのご好意は嬉しいですありがとう‥」
「‥君は知らなかっただろうね」
「そりゃ知らなかったよ!一応高校に入ってからの付き合いなんだから!」
「僕"達"はずっと巴を見ていたよ」
「?」
「‥由衣」

目の前で私の名前を呼ぶ声に、何故か背中がぞくりとした。そっと分厚い体育館の業務用カーテンレールをとった赤司君は、私を周りの視線から隠すように覆う。これ、今某映画で流行ってるカーテンの刑ってやつではないだろうか。情報源はやっぱり詩栄。‥なんてぼんやり考えていたら、後頭部に固定感。直後、唇に柔らかい何かが触れた。

「‥‥ッ‥!?」

慌てて押し返そうと手を伸ばせば、がしりと力強い手に遮られる。ちょっと待て。‥恋愛感情?‥‥恋愛感情!!?それとも赤司君は私が外国行ってたから、これが外人流挨拶だと思ってる!!?てか私は日本人なんですけど!!

「‥‥ッちょ、なんなの、なんなの‥!?」
「僕が由衣のことを友達として好きだと思っていたみたいだから」
「ああぁ当たり前でしょ!!?」
「これで信じてくれたかい?」
「大体、なんっ‥なんで!!?私を好きになるようなイベントなんてなかったよね!!?」
「僕に相応しいのは君だ。それに、無理矢理キスされたのに真っ赤になってる顔も、由衣のことを征服しているみたいで好きだな」
「ッ、馬鹿じゃないの!!?」

掴まれていた腕を無理矢理剥がして、カーテンの中から勢いよく飛び出した。なんであんな、急にキスされなきゃいけないの!!?しかもなんかこう、私を好きな理由が何も解明されていない!!一瞬すごくカッコよかったけど、全然嬉しくない、のに!!ああ、もう、顔があっつい!!

「いって!!‥って、由衣ちゃんちょうど良かった〜、探してた‥‥ん、どうしたの、顔真っ赤だけど‥‥」

曲がり角に差し掛かった瞬間、思い切り誰かにぶつかった。急いで立ち上がって顔を上げれば、本当にタイミング悪い人だなあと溜息すら出そうになったが、なんとか飲み込んだ。

「規矩せんぱ、‥あの、なんでもな‥」
「なんでもない顔にしちゃちょ〜っと可愛すぎるんじゃないの?何があったか先輩に言ってみ?ん?」
「ヒッ‥‥結構です!!」

ニヤニヤの顔面ドアップやめろ!と思ったら、反射的にお腹を殴ってしまった。ぐえっと潰れたカエルみたいな声が聞こえて我に返ると、目の前で規矩先輩が蹲っている。げ、ついやっちまった。視線を感じて顔を上げれば、松阪先輩と日吉先輩が親指をぐっと立てながら眩しい笑顔を見せていた。













「やるねえ巴!私もスッキリしちゃったー!」
「すみません‥一応規矩先輩は先輩なのに‥」
「一応だし、あいつには良いお灸だったからいいと思うよ!ナイスグーパン!」

リハも無事終わり、本番20分前。ぶすくれている規矩先輩を視界の端に入れながら溜息を吐いていると、日吉先輩から声をかけられた。まだ少し笑っている。そりゃ1年女子が2年男子に割と本気の腹グーパンなんて早々お目にかかれないだろう。

「ってか、リハでもミス無しさすがって感じだったけど、なんか心ここに在らずって感じだったよね。なんかあった?」
「いえ、いや‥‥はい、あの、大丈夫です」
「まあなんかあったからクソ哉太にグーパンしたんだろうけど。後でキツく言っておくから」
「いやあの‥規矩先輩は別に悪くないので‥‥」
「え?そうなの?」

ぱちくり。驚いた日吉先輩は困惑しながら首を傾げている。そう、規矩先輩は被害者なのだ。主に赤司征十郎という人物の。‥‥まあ、間接的に、なんだけど。

2017.03.09

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