「あ、かし君‥実渕先輩‥」
「‥ヤダ、由衣ちゃんに絡んでるのチャラ太じゃない。何やってるのよ」
「玲央‥お前その呼び方ホントやめろって〜‥俺の株一気に下がるじゃん‥」
「嘘なんかついてないんだからいいでしょ」

えっと‥知り合い‥?‥まあ確かに規矩先輩は2年生だし、実渕先輩も2年生だからそりゃ知り合いの確率は高いか。んでも190cm近く身長のある実渕先輩がいると‥なんていうかこう‥180cm程あるだろう規矩先輩が小さく見えるというか‥‥でも何故赤司君は然程小さく見えないのか‥‥態度的な問題‥?

「‥」

っていうかいつまで手を掴んでいるつもりだ。実渕先輩に愚痴愚痴小言を言われながらも、掴んでいる手を緩めるつもりはなさそうで思わずむっと規矩先輩を見上げる。チャラ太ってまさに規矩先輩の為にあるようなニックネームじゃないか。ナイスネーミング実渕先輩。

「不快だな」

そして突如小さく聞こえた言葉に、今の私の声じゃないよね、と慌てて片手で口を塞いだ。

「‥‥‥は?」

だけど違った。制圧するような凛とした声が実渕先輩の隣から発せられた物だと気付いたのは、規矩先輩の納得いかないような不満気な声が漏れ出てからだった。

「明らかに嫌がっている顔をしているのが分からないのか。見ているこちらまで不快だと言っているんだが」
「‥ちょ、何、玲央、誰コイツ‥」
「手を離せ」
「せ、征ちゃん‥?」

いやもうまさに私の心を代弁して頂いてとてもありがたいのですが‥‥赤司君がなんか怖い‥。そっと規矩先輩を盗み見てみると、見下すように赤司君を睨んでいる。なにこれどんな状態?そう実渕先輩に問いたかったけど、どうやら実渕先輩もこの可笑しな状況についていけていないらしい。顔が強張ってる。

「お前1年だろ、由衣ちゃんの彼氏?」
「僕が離せと言ったら離せ」
「‥そんな王様みたいなこと1年が言って2年が聞くとでも思ってんの?」
「王様みたいな態度を彼女にとっているのは貴様の方だろう」
「は、なんなのお前‥!」
「とっ‥‥とりあえずチャラ太、由衣ちゃん離してあげたら?嫌がってるのは私から見ても分かるわよ」
「‥チッ‥‥‥あー、なんか‥シラけた」

シラけた、じゃないわ。こっちはハラハラしたってーの。掴まれていた手がぱっと離されて、自由になった掌。自由になったのに、今度は赤司君に鎖を繋がれているような、逃げたくても逃げられないような‥

「巴、部活は終わったのか?」
「うえ!?う、うん‥」
「正門前で待っててくれ。送る」
「いやだから、私も寮‥‥」
「送ると言っている」
「了解致しました」

顔が怖いです!!!全くもって反論が出来ません!!!そんな私の言葉に満面の笑みを浮かべた赤司君は、ギロリと規矩先輩を睨み付けた後に実渕先輩を連れてその場から離れて行ってしまった。逆に規矩先輩との気不味い空間作るなんて酷い。

「‥‥マジ彼氏?」
「いや彼氏なんて此の方出来たことないです‥」
「そうなの〜?由衣ちゃんモテそうなのに」
「いやほんと今そういう冗談鵜呑みにしてる状況じゃないんで」
「‥ふ〜ん」













「遅かったね」

マジか本当にいた。どういうわけか同じ寮の筈の実渕先輩もいなくて、一緒に帰ればよかったのに、というか一緒に帰ってほしかったのに。靴を履いて外に出てみれば、正門前で赤い髪が揺れていた。もちろん規矩先輩には空気を読んでさっさと帰ってもらっている。

「ご、ごめん‥」

浅川さん、中々帰ってくれなくて。‥という言い訳は飲み込む。何度も同じようなことを言うが、彼女に赤司君と帰ってる所なんか見られたら、視線にも精神的にも殺られてしまう。

「あの彼が石川さんの言っていた例の先輩か」
「よ、よく覚えてるね‥」
「執拗であれば僕がなんとかするよ。帰りも出来れば送る。携帯は持ってるかい?」

赤司君は私のお父さんか何かですか?‥いやこれは流石に口が裂けても言えないけど。差し出された手は私の携帯を催促しているようだ。‥抗えないとはこういうことを言うんだと思う。

2016.11.05

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