本日休日。部活は夕方までで終わり、個人練習でもして帰ろうとしたら規矩先輩に絡まれかけたので、ドラムパッドだけ持って部室を出た。ドラムパッドとは、ゴム素材でてきた、ドラムを練習する為に作られた物だ。規矩先輩はその後、松阪先輩にシメられているのを見かけたから追いかけては来ないだろう。あの光景にも慣れてしまった。浅川さんとはあの日以来僅かな口しか聞いていないが、それでいいのだ、それで。平和に過ごそう僅かな休日。

「あ」

部室からそのまま近くの階段を降りると、体育館へと繋がる通路がすぐ横にあって、体育の授業に行く生徒や部活生達とよく遭遇する。本日もやはり遭遇した。休日なので体育の授業に向かう生徒ではないが、部活動中だろうバスケットボールを頭に乗っけて、所謂バランスボールをしている男子生徒。‥‥‥すみません名前忘れました。

「あっれ‥由衣ちゃん?昼飯以来じゃね?」
「こんにちは」
「今日学校休みだよね、何やってんの?その棒と丸い変なの何?」

棒って。ドラムパッドはまあ分かんないとして棒って。間違ってはないけどさ。

「私今日部活だったんです。マーチング部でパーカッションをしてるので、棒は必須なんです」
「そーなんだ!そういやバスケ部の新人戦、毎年オープニングでココのマーチング部出てんだっけ。もしかして由衣ちゃん出たりすんの?」
「はあ、一応」
「マジ!?じゃーオレ由衣ちゃんの活躍見れるってことじゃんね!?まじか!緊張して失敗すんなよ!」

ニカッと笑った先輩に、ちょっとだけムッとした。本番なんて大会に比べれば数倍楽しく演奏できるし、失敗なんてするもんか。むしろ失敗しても成功に変えてやるんだから。てか本当に名前なんだっけ。

「正直今更緊張もないですけど‥‥それに多分、演奏中は誰が私か分かんないと思いますよ」
「へ?なんで??」
「ちょっと小太郎、休憩終わるわよ‥‥アラ、由衣ちゃんじゃない〜この間ぶりね」

後ろから現れた実渕先輩の声に、私の記憶が戻ってきた。小太郎、葉山小太郎だ!!そうだ!!あーすっきりした、と大きく息を吐く。というか、実渕先輩の汗の量凄い。全く見ていなかったけど葉山先輩も。練習着普通に絞れそうだ。あ、額を流れた汗が垂れる。そう思って、慌てて部活用の鞄からハンドタオルを取り出した。

「はい」
「え?何?」
「汗が垂れます。この間も楽器持ってた子が廊下の水で滑って危なかったんですから、タオルくらい持っててください」
「お、おお‥」
「実渕先輩も」
「ありがと。んん‥女の子ねえ、タオルが良い匂いだわ。男臭いウチの部室とは大違い」
「うわ、いきなり匂い嗅ぐとかないわレオ姉」
「ぶん殴るわよ」

私も同じ気持ちになったことは言わないでおこう。そう考えながら2人の会話を聞いていると、上の階段から声が聞こえてきた。男子生徒の声。‥しかもこれは、さっきまで松阪先輩にシメられていた規矩先輩の声だ。無理。今すぐ帰ろう。

「そういうわけで、私は帰ります!」
「あ、タオル洗って返すから」
「タオルの1枚や2枚どうぞ!さよーなら!」

腰を折り曲げて頭を下げると、規矩先輩が降りてくる前にさっさとその場を後にした。滅びろチャラ男。













「何故に」

曲のテンポ、譜面も全て、部屋で一通りは通せた。そこで私のお腹が鳴った。時計に目をやると夕ご飯の時間になっていて、食堂に行くか、どっかのファストフードにでも行くか‥そう考えていたら、何故か無性にマジバのチーズバーガーを食べたくなってきて。‥なんならフレッシュトマトバーガーでもいい。体に悪いものが食べたい。‥そう考えて、1人マジバに来たのだ。19時だよ。知り合いの生徒等誰もいないだろうと思うでしょうが。しかも、割と私の悩みの渦中にいるその人がハンバーガー食べに来てるとか思わないでしょうが!!

「今日はよく会うわねえ」
「巴は1人でこんな所に来るのか。意外だな」
「その言葉そっくりそのまま返すね赤司君‥」

テーブル席でむぐむぐとポテトを頬張っていると突然肩を叩かれて、振り向いた瞬間目玉が飛び出そうになった。どうやら空いている席がなかったらしい赤司君と実渕先輩がそこにはいた。マジバがマジで似合わない。洒落じゃない。そして遅れて登場したのが葉山先輩と、真っ黒でムキムキマン。誰。てか狭い。酷い。そしてトレーに溢れんばかりのハンバーガー。

「なにより食べ過ぎなのでは‥」
「ゲェーーーーーーー‥」
「アンタねえ!!女の子が同席してるのにちょっとは我慢ができないの?!」

目の前でとても長いゲップをされた。最悪だ。

2016.09.11

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