「ミイ、おはよ」
「あー‥詩栄。おはよ‥何、今日早いね‥」
「えー?いやあ、昨日のミイ達見たらいてもたってもいられなくってさあ‥」
「?」
「赤司君と一緒にご帰宅なんてどうしたのー?興味ないとばっかし思ってたのに」
「ぐっ‥!?」

やっば、梅干しが気管に入りそうだ!慌てて咳き込むと、ニヤニヤしている詩栄からお茶をぶんどった。てか、あんなに慎重に周りを気にしながら帰ったのになんで知っているんだ。小さい寮の食堂にいる数名の寮生を気にしながら、私は詩栄の襟元を掴むと、無理矢理隣に座らせた。

「ちょっと、大きな声で喋るのやめてよ‥!てか、なんで知ってんのよ」
「私の部屋3階なんだけど、道路側にあるから帰ってくる生徒丸見えでさー。ちょっと暑くて窓開けようかと思ったらアンタと赤司君がいるし。しかも1回ミイの方振り向いて赤司君なんか言ってたでしょ?部屋行こうとしたんだけど、ミイが寮入ってから丁度部屋移動禁止時刻になっちゃってさあ〜‥」
「それはよかった」
「んで?なんで一緒に帰ってきてたの?」

顔がウザい。こういう話に絡んでくる詩栄、心底ウザい。ぐるりと、私を逃さないとばかりに首に腕を巻きつけてくる。物理的な意味でご飯が喉を通らないんだけど。周りの寮生を確認しながら、観念して箸を置いた。どうやら浅川さんはいないようだし、今ならいいか。そう思って詩栄を落ち着かせた。

「変な勘違いしてほしくないから言うけど」
「巴?」
「ぎゃっ」

近くで聞き覚えのある声。いきなり呼ばれた自分の名前に驚いて、反動で後ろを振り向いた。そこにいたのは言わずもがな赤司君。汗だくということは、トレーニングでもしてきたのだろうか。っていうか、この時間にトレーニング終わったというのか。私はむしろこれからなんだけども。‥いや別にそれはいい。赤司君、タイミング良くない。

「珍しいね。こんな所で会うなんて」
「そ、そうかな‥私、朝ご飯、いつも、こっちの食堂、だから‥」

寮生の為の食堂は2つあって、1つは男子寮のある大きな食堂と、もう1つが男子寮と女子寮の間にある小さな食堂。元々食堂は小さい所1つだけだったらしいが、男子生徒が増えた為に寮の増設、次いでその寮は男子寮になり、食堂まで増えたそうな。‥って、そんな説明はいい。詩栄もいるし面倒くさそうなので逃げたい。

「ああ、向こうの食堂は人が多くてね。飲み物だけ買いに来たんだよ」
「へ、へえ‥」
「あ、征ちゃんこんな所にいた。マネージャーが今度の練習試合の相手データを‥‥あら?」
「玲央」

次いで後ろから現れた高身長に目を奪われた。でっかいな。そう思ったのもつかの間、見覚えのある姿に目を見開いた。今、征ちゃんって言った‥?まさか、赤司君の知り合い、だったの‥!?

「由衣ちゃんじゃない。寮生だったの?」
「み‥実渕先輩‥」

にこにこしながらぽふ、と私の頭に掌を置く実渕先輩を見ながら考える。確か実渕先輩、2年の筈では。今さっき赤司君、「玲央」って呼んだよね‥?赤司君、私と同じ学年だよね‥入学したばっかりだよね‥?

「2人とも知り合いだったのか」
「この間お昼一緒に食べたのよ。ねえ?」
「はい‥」
「そうか」
「それにしても、征ちゃんが女の子と会話してるの珍しいわね。そっちこそ知り合いなの?」
「ああ。巴とは中学が一緒だったんだよ。それよりデータがどうした?」

だから、私はそれを知ったの高校に入ってからなんですけどね。‥とは言えなかった。赤司君、無言の圧力怖い。そのまま2人で話し込み始めてしまったので、ぽかんとする詩栄の首根っこを掴んで、そろりそろりとその場から離れてみる。なんとか端っこまで逃げた所でほっと息をついた。

「ミイぐるじい」
「うわっ、ごめん」

ぐったりとしている詩栄の首根っこから手を離して、慌てて背中をさすった。「いや吐きたいわけじゃないし」と突っ込まれる辺り、私は少しばかり動揺しているらしい。だって、赤司君と実渕先輩が知り合いってどういうことって感じだし、先輩を名前呼びって‥‥運動部だとそうなるのか。私は聞いたことない。

「いやー‥まさかミイがあの実渕先輩とも知り合いだったとは」
「あの?」
「超綺麗じゃん?それでバスケ部の副キャプテンやってんだよ。結構人気あるんだって。ま、オネエ系だけど」
「てか詩栄なんでそんな詳しいの?」
「イケメンは正義!」
「あっそ‥」

聞かなきゃよかった。ぼんやり適当に返事を返しながらこっそり運んできた朝ご飯の残りに手をかける。やば、走る時間なくなる!

「じゃあ巴、また教室で」
「バイバイ、由衣ちゃん」
「‥」
「いーなあミイ!高校生活超薔薇色じゃん!」

バカを言うなこんちくしょうめ。手を振って食堂から離れていく2人に、無言で小さく手を振った。私優しい。

2016.08.23

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