「……」

すごいと思った。何がっていやいや、今日の黒子君のプレーの話だ。

「どーなってんだ一体!!?」
「気がつくとパスが通って決まってる!?」


なんだ。なんだあれ、あんなの…見た事無い。あんなのバスケの試合でありなの、てかあり得るの?部屋のベッドにうつ伏せになって考えている事はただ1つ、黒子君のバスケットプレイ。テレビで見てきたどのスポーツにもない、異質なまでのスポーツスタイル。火神君の言ってた「幻のシックスマン」っていうのは、もしかしてこのことを言っていたのだろうか。バスケのルールはそこまで詳しくないけど。

「うわあ!!信じらんねェ!!1点差!?」


最後に勝ったのは1年生チームだった。それも、火神君と黒子君がいたからだと思うし、むしろ火神君だけじゃ勝てなかっただろう。先輩達も黒子君には完全に意表をつかれていたし。それに、焦りとか闘志とか、そういうのも何も見えなかった。…けど、彼は途中開いていた点差を見てもなんら動じることもなくて。そんで、私が今言える事は、凄いってことともう1つ。

「め、…ちゃくちゃかっこよかった……」

信じらんない本当に。あんなに影薄いのに。トラが言ってた日向先輩なんて視界にも入らなかった。思い出せるのは、ボールに触れた途端パスの軌道が読めなくなってしまう映像と、周りを観察するような、何を考えているかいまいち掴めない目の鋭さ。ぼふっと枕に顔を突っ込んで、声に出した口を無理矢理押さえ込む。…ああ、私も黒子君に意表つかれてるわ…。












「私バスケ部を見る目変わりそう」
「あ?」
「なんですか急に」

月曜日。事の発端は全校朝礼前まで遡る。そう、ただの全校朝礼だった。…はずだった。

「キセキの世代を倒して日本一になる!って言いながら、屋上のフェンスに足をかける人なんてそういないよ!飛び降りるかと思ったし、黒子君なんて屋上から拡声器使おうとしてたでしょ!ガーピー、とか変なノイズ音しか聞こえなかったけど!もーほんと笑わせてくれるよね!ふはーっ‥あーお腹痛い」

全校生徒、先生の集まる全校朝礼。そこで、男子バスケットボール部が屋上から突然自分の目標を叫んだのだ。目を丸くしたと同時に私は盛大に噴き出した。

「しょーがねーだろ!アレやらないと入部できないって言われたんだぞ!」
「中々鬼畜なマネージャーだよね、あの女の先輩。…あ、監督なんだっけ」
「僕はまだ宣言ができていないのでお昼にでも屋上に行くべきでしょうか…」
「ふふ、その時は私もついてこっかなー」
「それはとても心強いですね」

ちょっと冗談(半分本気)で言ってみたら、まさかの黒子君スマイル飛んできた。まじか。何故だかとてもくすぐったい。そんなむず痒さを誤摩化して、鞄の中の飲料水を口に流し入れた。

「お前何黒子の真顔に取り乱してんだよ」
「取り乱っ……って、今真顔じゃなかったよ、笑ってたもん!」
「ああ?お前の目どうかしてんじゃねーの?つか黒子が笑うとかキモチワリー」
「火神君は僕を何者だと思っているんですか」
「うっせ!」
「反対に兎佐さんは人をよく観察してますね」

兎佐さん。なんて呼ぶ黒子君に、またどこかむず痒い。っていうか、中学から学校一緒だっていうなら、皆みたいに…

「…ウサギって、」
「?」
「っ、や!?なんでもないっ!」
「……もしかして、ウサギさんって呼んだ方がいいんですか?」

ばか!!私急に何言ってんの!!?そう思ったのもつかの間、こてんと首を傾げて黒子君は私のあだ名を口にした。無意識とは怖い。そうは考えても、今までこんなにウサギと言うあだ名が恥ずかしいと思った事はなかった。あー、痒い、なんか照れる。…私なんでほんと、中学の時この人のこと知らなかったんだろう。どうかしてる。

「ウサギさんってまるでペットじゃねえか」
「じゃあやっぱりウサギの方がいいですか…呼び捨ては慣れませんね…」
「あだ名なんだからいーんじゃねーの。なあ?…って!!兎佐!!顔赤え!!」
「火神君も、ウサギでいいよ、」

ほんと、私今日おかしい。

2016.08.18

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