「バスケ部、試合するらしいよ」
「そうなんだ。だからコート開けたのかあ‥‥リコも相変わらず頑張ってんね」

先輩が話しているのを聞きながら私は制服に着替えると、落ち着かない様子でそわそわしているトラにちらりと視線を向けた。‥うわ、全身で「見たい!!」って言ってる。こりゃあ早く帰れそうもないな。そう思っている時点で私はトラに連れて行かれることを予想して、そして行くことも肯定済みらしい。らしいっていう言い方はおかしいけど。

「ウサギ来てくれるよね!!?」

ほら来た。

「はいはい‥分かってたよトラ‥行くよ‥」
「2人共ほんと仲良いな〜。流石同中だねえ。じゃあ、私達先帰るから〜」

仁村ちゃん達はそう言いながら、ぞろぞろと更衣室を出て行く。私も帰りたいなあ‥なんて思いながら、少しだけ試合が気になる。噂によると、バスケ部も1年生と2、3年生の試合するらしいし。あの黒子君も出るかもってことでしょ?どんなプレイっ‥というか、まあ、まず相手にされない気がするけど‥

「‥ちょっと、帝光2人組」
「え、うわなに、何怒ってんの鷹島ちゃん‥」
「怒ってないわよ!その‥‥試合、驚くことばっかだったけど、楽しかった、し‥‥これからよろしくって、言っておこうかと‥」
「「‥ツンデレ」」
「ハモるな!!!」

やば、トラと息ぴったりだった。ツンデレ女子って漫画の中だけかと思ってたけど違うのか。ちょっと親近感増した。そう考えていたのは私だけではなかったらしい。トラも笑っていた。‥少しだけ悲しそうに。

「ねえ、それより聞きたかったんだけど‥」
「ってウサギ試合始まっちゃう!早く行こ!」
「ちょっ、引っ張んないでってば‥!!」
「‥‥‥っちょ、コラ!!人の話聞けー!」

慌てるトラに引きずられて、鷹島ちゃんから引き離される。鷹島ちゃんツンデレだけど怒ったら絶対めっちゃ怖いって。なんとなく鷹島さんと"あの子"、よく似てるから。

「‥同じことトラも考えてたりして」
「ってことは、ウサギもでしょ」

私を引きずる手に力が込められた気がした。












ビーーーーーッ

バスケ特有のブザーが体育館に響く。私とトラは体育館の2階に上がり、試合を見学に来ていた他の部活生に混じって観戦していた。試合開始初っ端、火神君がまさかのダンクシュートを決めて、周りが沸く。ってか、飛びすぎじゃない!?本当に高校生か!てか日本人か!!そしてトラが必死に目で追いかけている日向先輩は、コート内を走り回り、ゴールを何度も決めている。おお、遠くから決めた。すごいな。‥いやそれよりもだ。

「‥‥‥黒子君、どこ」

そう。黒子君がコートにも、どこにもいないのだ。得点板してるわけじゃないのに、さっきまで私と喋ってたのに、‥どこにもいない。しかも火神君めっちゃイライラしてる。火神君1人で点取ってるもんなあ‥ずば抜けて身体能力高すぎるでしょ‥‥そして、試合途中に揉め事が起きて、火神君がキレた。

「‥‥‥もういいって‥なんだそれオイ!!」

うわわ、キレるとまたすごい迫力あるな。そんな雰囲気の中、突然火神君の後ろから人影が‥見え‥

「落ち着いてください」
「テメ‥」
「‥‥っは‥、?」

思わず声が出たのは私だけだった。それはきっと、私だけが黒子君を探していたからだろう。‥‥嘘だ、どこにいたの。火神君に膝カックン攻撃をした黒子君は、怒りの対象にされている。

「なんかモメてんぞ」
「黒子か‥そーいやいたな〜」
「‥‥???」

まさか魔法使いか何かか。この後何が起こるかも知らずに、私は現実に「魔法使いがいるのかもしれない」という思考を止めることができなかった。

2016.07.29

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