「ええーーーっ!」
「ええーーーっじゃないだろ。これは先生の推薦なんだから大人しく受け入れろー」
「私絶対向いてない、いやほんとに、これは真実だし、先生私を過大評価し過ぎ。嬉しくない。そんな大層な器なんか持ってないですって。勘弁してください!」
「学級委員くらいで大層な器なんてそれこそ学級委員を過大評価しすぎだぞお前」
「だってこの人が最早大層な器なんだからしょうがないじゃないですか!私無理!」

昼の職員室にて。担任の恵比先生(通称:えびせん)に突然呼び出されたと思えば、個人的に気まずい赤司君もえびせんの机の前にいた。何故。その疑問と背中にしっとりと滲む冷や汗の中、えびせんが爆弾を落としたのである。「お前ら2人で1学期の学級委員やれ」と。冷や汗が一瞬にして蒸発した。学級委員って普通文武両道で才色兼備な生徒がやるもんでしょ。自分でいうのもなんだがそんなわけあるか!キャラじゃない!そしたら笑顔で「そういうことなんだよ、巴」と言われた。微塵も思ってない顔をしている。本気でえびせんべいにしてやろうか。

「まあなんだ、赤司は学年1位で素行も優秀だが、巴も成績は学年6位だったからな。つまりクラスでは2番、ということだ。ま、お前の中学での素行ははっきり言って内申見ても意味不明だったが、お前ら中学一緒だったんだろ?ちょうどいいし」
「中学同じだったことを知ったのは洛山入ってからですけど!」
「いやあ、青春だな。風紀は乱すなよ」
「人の話聞いてください!」

服装はジャージ、セール中のワゴンに入っているようなおっさんくさいスリッパ。顔は30代。そんなえびせんは、何が面白かったのか、だはは、とおっさんみたいに笑った。腹立つ。ちらりと赤司君を盗み見てみれば、口元をきゅっとあげて、同時に私の肩に掌をぽんと置いた。

「大丈夫。僕がしっかりフォローするよ。心配することは何も無い」
「あ‥っていうか!そういうことじゃ、」
「それとも何かな、まさか僕にここまで言わせておいて、面倒くさい、なんて言うつもりはないよね?」

選択肢一択?!‥いや、そうです。当たり前じゃんか!‥なんて‥私に言う勇気はもう限りなく無い。というか無い。レールの上を無理矢理歩かされている感覚でしかない。笑っている赤司君の顔は、絶対王政の頂点のそれだ。

「こうでもしないと学級委員なんて決められないだろう。いいじゃないか、最初に借りを作っておけば」
「おっ、赤司。良いこと言うな。加えて借りとは強かな奴だ。よし、しょうがないから1個ずつ借りにしといてやるよ。赤司、巴」

赤司君に上からの物言いした!さすが教師。‥じゃない!結局私の震える声はえびせんと赤司君に届くことなく、いつの間にやら赤司君は私の背中に手を当て、そのまま職員室を出るように促される。強制退出だ。思わず下からじろりと赤司君を見上げた。

「‥酷い赤司君」
「何が酷いんだ?巴さんは成績も然り、誰に対しても媚びることなく常に自由で自然体だ。僕は、クラスの女子生徒の中で1番巴さんが相応しいと思っているんだけど」
「相応しいなんてありえないし、自由でってそれクラス纏める人には向いてないよ!‥ていうか普通嫌でしょ。赤司君バスケ部なんだよね?私もマーチング部。委員会って部活やる上ですごく邪魔なの。分かる?」
「それは巴さんの個人的意見であり言い訳だよ。推薦は先生。僕が先生の立場でも推薦するさ。他人が評価しているんだ。学級委員なんて自分で立候補するものじゃないだろう?」
「そ、それはそうかもだけど‥」

言い訳が続かない‥だって、ほんとに嫌なんだもん。ていうか、生きてきた中でそういうナントカ委員とかするの初めてなのに、まさかの学級委員だし。ぶうっと頬を膨らませて、言葉にならない理不尽さを滲み出るオーラでぶつけていると、背中に当てられていた赤司君の掌が、一瞬だけふわりと頭の上に乗って、くしゃりと撫でた。同い年のくせに(見えないけど)‥子供扱いするな。

「‥‥赤司君、と、巴、さん‥?」

次いで突然小さく響いた声に、ぱっと顔を上げた。そんな私達の様子をばっちり見ていましたよ、とばかりに目を丸くしていたのは、偶然職員室に用があって来たのだろう浅川さん。またの名を赤司君を洛山まで追いかけてきたフロントピット女子。数冊のノートを持って固まっている。‥これはなんだかとても気不味い。

「と、巴さん、赤司君と仲良いんですね‥?」

小さく笑顔を見せてはいるが、ほとんど笑えてはいない。ほれみろ!何か勘違いした!違うのに!そう言わんとばかりに私は顔をぶんぶんと左右に振った。

「ああ、‥‥巴とは中学が一緒だったんだよ」
「そ、うなんですか‥」

ねえ急に呼び捨てになったんだけど何のレベルが上がったの!?にこやかな赤司君とは対照的に、切なそうな浅川さんの顔が瞳に焼きついた。これ以上赤司君が余計なこと言わなきゃいいんだけど。何事もなかったかのように「巴、教室に戻ろうか」なんて言う赤司君は、くるりと浅川さんに背を向ける。

「‥‥赤司君」

妙に色気を孕んだような声にも赤司君は反応することなく、そっと私に微笑んだのだった。

2016.07.29

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