「いっただっきまーす」

お昼ご飯を1人でなんて寂しい奴だ、なんて言うのは禁止だ。誌栄は日直で先生のパシリという被害にあっているらしい。可哀想に。だからって手伝ってあげるようなマネはしない。いやだって面倒くさいしなあ。今日のお弁当の中身はそぼろご飯にその他おかずである。屋上ってやっぱいいなあ。まだそんなに暑くもないし、快適だ。

ーーそれにしても…

朝会った時も思ったけど、赤司君って本当に同じ学年なのかな、とふと疑問に思う。まだほとんど会話したことないけど、雰囲気がもう落ち着きすぎていて逆にこっちが落ち着かない。それと、あの目に見られると、なんか見透かされているような気分になる。…ちょっと怖い、というかなんというか。

「…"彼"と同じ匂いもするからね」

一体、誰と私を重ねていたんだろうか。懐かしむような、それでいて嘲笑うかのような……どこか悲しそうなような。

「あれ?誰?」
「アラッ。先客なんて珍しいわね〜」

そしてふと気がつくと、私の側には2人増えていた。やばっ…考え込みすぎていた…!よく見ると…大きい…し…ちょっと怖い…ちょっとじゃない…!!!しかも片方オネエ…!!?

「…しかも1年じゃね?おっ結構カワイイ!」
「小太郎、初対面でしょ」
「別によくね?で、1人でご飯とか友達いねーの?ああ、もしかしてアレか、クラスに馴染めません〜ってやつか!そうだろ!」

何この人ムカつく。八重歯がちらりと見える特徴的なその人は、ケラケラと笑って私の隣にどさっと腰を降ろした。…って、誰も隣に座っていいなんて言ってないし…!で、でも先輩だったら色々と面倒くさそうだ…!!どうにもこうにも言葉が出てこなくて口をぱくぱくしていると、「おお〜」なんて言いながらずずいとお弁当の中身を覗き込んできた。

「ちょっとデリカシーなさすぎよ」
「イッテ!んだよ、だって旨そうだったんだよ、あ、ねえ、名前なんてーの?あとこの卵焼き何入ってんの?1個もらっていい?」
「質問も多過ぎ」
「あーもうレオ姉うっさい!」

私を無視して喧嘩すんな。…とも言えないので、卵焼きをさっと隠すことで私の気持ちを伝えたつもりになった。しかし伝わらなかったようだ。「卵焼きがダメならその春巻きみたいなの!」って。空気すら読む気はないらしい。

「気にしないでお弁当食べていいわよ。こんな肉食獣みたいなのが急に喋りかけてきたら怖いわよね。私も怖ぁい…」
「そういうポーズはレオ姉がやるとシャレになんねーからやめろっての!」
「酷ぉい」

両手で自分の腕をぎゅっと抱え込む仕草をした黒髪のおネエさんに背中がびくっと震えた。なんでこんな時に詩栄はいないんだと、そして屋上に来てしまったのだと深く後悔が押し寄せる。スプーンを掴んでなんとかそぼろご飯を掬うと、そっと口に運んだ。どうしよう確かに美味しいはずなのに味が感じられない。なんなのよもう…もぎゅもぎゅと無味無臭に感じるそぼろご飯を噛み締めていると、ポン、とちっちゃな唐揚げがお弁当の上に乗った。

「ごめんなさいね、小太郎がご飯の邪魔して。よかったらこの唐揚げどうぞ?あ、すっごく美味しいから大丈夫よ」
「…へ」
「んだよ、レオ姉の弁当のおかずとかオレ貰ったことねーぞ。贔屓だ贔屓」
「アンタのせいでこの子が怖がってたからでしょうが。全く野蛮ねえ‥」

すん、と鼻にかかるバジルの香りが、そぼろご飯の無味無臭を取り去っていった。まさかこのおネエさん、めちゃくちゃ良い人なんじゃ…そう思った時には唐揚げを口に入れていた。なにこれすっごい美味しい…!こんなに身長高い綺麗な男の人が、おネエで、料理上手なんて…!!

「あら〜、凄い良い顔で食べてくれて嬉しいわあ…アナタお名前は?」
「あ、…えと、1年の巴由衣です。この唐揚げすごく美味しいです…!」
「アリガト。私は2年の実渕玲央。よく屋上で小太郎とご飯食べてるから怖くなくなったらいつでも来てね」
「実渕先輩は怖くないです」
「は!?はって何!オレも怖くないって!てか餌付けじゃんレオ姉!」
「アンタもちゃんと自己紹介しなさいよ」
「2年葉山小太郎!オレも別に怖かねーし!」

そう言ってビッと握手を求めてきた葉山先輩に、私はぽかんとした数秒後笑いが止まらないのであった。その後、自分のお弁当の卵焼きと肉団子を2人に分けたのは、ご愛嬌…ということで。

2016.06.20

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