「あれ、今日はご一緒登校ですか?」
「おはようございます黒尾さん。今日のその髪型どうしたんですか、寝癖酷いですよ」
「いつもと変わんねーよ。‥って赤葦クンはいつも変だっていいたいのかな?」

いつもだったら少し時間をずらして家から出ていたけど、最近は赤葦君に一緒に行こうと半強制的に2人で大学に行っている。ばれちゃうよ、大丈夫だよ。そんな会話も意味がないことに気付いてきて今日は何も言わなかったが、そんな時に道端で出会ったのは黒尾先輩だった。寝癖酷いかな、いつもと同じに見えるんだけど。

「那津ちゃんこの間はどーもね」
「?こちらこそ、‥ありがとうございました?」
「小鳥さんなんで御礼言ったの」
「え、あ‥一緒に飲んだから‥?」
「変なの」
「赤葦君俺先輩ね」

いや、御礼を言ったのは反動だ。だって先輩にどーもね、なんて言われたらどーも返しするしかないのでは。2人だった空間に背の高い彼が入ってきたことで少しだけ窮屈になって、さっきまで赤葦君とあった距離が縮まった。多分、付き合っていたら普通の距離なのかもしれないけれど、いかんせん彼氏がいることに慣れていない私なのだから緊張してしまう。黒尾先輩もうちょっと向こうに寄ってくれ。

「そういや赤葦、今日他の大学から練習試合しにくるらしいから、男子」
「俺今日5、6限あるんですけど‥」
「休んでほしいんです」
「早く言ってくださいよ」
「急だったんだよ。澤村から突然連絡あってさ」
「澤村って‥あの澤村さんですか」
「そうそう」

私の知らない話しだ。ちょっと疎外感。2人の輪に入れる筈もなくポケットから携帯を取り出すと、ネットニュースを見ながら今日のお昼は何を食べようかと考えた。3限あるからお昼帰るのは面倒くさいなあ。円ちゃん誘って食堂にでも行こう。

「おおーい、那津ちゃん聞いてる?」
「へ、うわ!はい!なんでした?」
「今日5限から授業ある?」
「ありますよ、赤葦君と授業被ってますもん」
「だから言ったじゃないですか」
「休めない?」
「ええー‥」

休めない?と言われても、なあ‥。1回も休んでないからこれっきりだったら休んでもいいけど。ちらりと赤葦君の顔をみると、諦めに似た様子で大きく溜息を吐いていた。どうやら彼の中ではどうするかを決めているようだけど、‥でも何故私まで休む必要があるのだろうか。

「那津ちゃん烏野高校って知ってるよな?」
「あ、はい、春高出てたとこですよね!知ってます!身長低いMBの子がいたとこ!凄かった〜!」
「あの時の主将がいる大学のバレーサークル来るんだけどさ。ラインズマンあと1人足んねーから試合見るついでにやってくんねー?」
「か、烏野の主将‥凄い知り合いいるんですね‥」
「それは俺も凄いってことにはなんないのかな?」

少し不服そうな黒尾先輩に、じゃあ今日だけ休みますと言うと、直後に分かりましたと赤葦君の声も続いた。烏野は見ていて飽きない試合で、内容も毎試合とても面白かった。攻撃も多彩だったし、応援せずにはいられなくなる。そうか、春高の時の主将に会えるのかあ楽しみ!そう、‥気分が盛り上がっていた時だった。

「ひや、」

黒尾先輩から見えない死角、そうして目線を違うところに向けているその短い時間を狙って赤葦君の手が私の手に絡んだ。きゅ、と握りしめて、すりすりと優しく撫でる指。待って待って、今そんなことしないで恥ずかしい。そんな気持ちを伝える為に見上げてみると、私の様子を面白そうに見つめる目。ひっどいなあほんとにこの人は!完全に遊んでる、遊ばれてる!こっそりと黒尾先輩を盗み見ながらなんとかそっと口にした。

「赤葦君、だめ」
「‥でも嫌じゃない癖に」

そう言われて嫌なんて言えるわけない。口籠もった私の唇を見て、赤葦君は随分と嬉しそうに笑った。

2018.01.19

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