「莉子ってさあ、結局どっちが好きなの?」

なんの脈絡もなく始まった私中心であろう恋バナに、ぱくりと口に入れたおにぎりを咀嚼しながら首を傾げた。小学校の頃からずっと一緒に過ごしてきた新森芽依は、弁当箱に残った最後のスナップエンドウを齧っている。オヤジか。

「どっち?どっちってどっち?」
「だから、影山君と白布君のこと」

今ってそんな話してたっけ。確か、昨日の人気恋愛ドラマの話をしていた気がするんだけど。人気恋愛ドラマとは、三角関係に拗れる青春学生ドラマのことだ。主人公の女子高生が2人の男子高校生に揺れ、そして2人の男子高校生もその女子高生に好意を寄せているという、どこか間違えれば昼ドラのような展開になりそうなストーリーである。しかし中々面白いのだ。泥沼化しそうではあるけど、そこはさすが純情高校生物語(?)というか。男子高校生2人の発言が無駄にカッコ良すぎたり、巷で流行りの壁ドン床ドンが視聴者(主に女子)の心を鷲掴みにしていたり。

「いや、てかなんでその2人なの。歳下しか選択肢ないの?」
「だってその2人くらいしかアンタの周り思いつかないもん」
「失礼だな!たまにウッシーもいるよ!」
「たまにってなんなの」

はあ〜って、大きな溜息をついた芽依はすこぶる残念そうな目で私を見た。なんでそんな目で見られなければいけないのだ。そもそもどうして飛雄か賢二郎の2択なんだよそこもホント失礼だよ。顔の好み的には現青城の主将である及川君ですから。顔は。

「だって走り込みだって影山君と今だに2人で行ってるんでしょ?白布君に至っては莉子が押しかけて練習に付き合わされてるって聞くし。邪な理由無しでしてるなんて言ったらただのバレー馬鹿女子高生だよ」
「走り込み?ロードワークのこと?」
「うん」
「ああ‥まあ別にバレー馬鹿についての否定はしませんけどね」
「恋愛物のドラマなんか見てるその口がそんなこと言っていいと思ってんの?引くわ」
「めちゃくちゃ言いますね芽依ちゃん」
「ほんとのことだもん」

ずずずーっと中身が無くなったらしい音を立てた紙パックを綺麗に折り畳みながら、弁当箱を片付けだす彼女は面白くなさそうに顔を歪ませている。大体あのドラマだって、ドラマだから面白いのだ。現実にあんなことあるわけないでしょ。2人の男に言い寄られ、アホみたいに背中が寒い台詞を言われるなんて耐えられない。どういう意味で?それこそ引くわってことだ。

「どっちも結構なイケメンなのになあ。なんで分かんないかなあ‥」
「なに、芽依は飛雄か賢二郎が気になるの?」
「馬鹿言わないでよ。私がどっちにも転ぶ筈がないの知ってるでしょ」
「そうなんだけど、なんか心変わりでもしたのかなって」
「そんなに軽い女じゃありません〜」

そうだよね。うんうん。そのまま席を立ってお手洗いに向かうと言う芽依に緩く手を振って、私はポケットから携帯を取り出した。新着メールが2件。‥どっちも飛雄からだった。

"今日飯食いに来ねえかって言ってた"

主語も何も分かったもんじゃないが、多分飛雄のお母さんに言われたのだろう。うちの親、今日から3日間結婚記念日だからって2人っきりで遊びに行ってるもんなあ。娘を置いて行くなんて仲良しめ。‥そうして多分、それを知ってて誘っているんだろう。兎にも角にも幸運である。今日も部活だし有難い。

"お邪魔する!"

カチカチと手早く文字を打ちながらふと考えた。飛雄と賢二郎かあ。考えたことなかったけど、もし、もしもの話、もし!2人に言い寄られたら私はどっちを選ぶのだろうか。超馬鹿超絶バレー馬鹿の飛雄か、超クールというか無気力系というか、一言余計男子の賢二郎か。‥いや、考えるだけ時間の無駄だな。だって顔の好みからいったら及川君だもんなあ。

"ロードワーク遅刻すんなよ"

ピロリンとまたメールの着信の音が響く。なんなんだ飛雄め、上から物を言いやがって。それでもずっと一緒にいる弟みたいな存在なのだ。1人っ子の私からしたら、とても大切な人には変わりない。

ああ、今日のご飯なんだろうなあ。カレーだといいなあ。そんなことを考えながら、来週放送される人気恋愛ドラマの予告をチェック。‥"アゴクイ事件勃発"っていう題名なんだけど、これ芽依に意味聞いたら分かるかな。

2017.06.09

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