私は球技が苦手。‥という前回の発言から、数10分後には言葉通りのバスケプレイをしてしまった。目の前には白い天井が広がっている。なんで?は聞かないでほしい。顔面にバスケットボールがバウンドしてきたんだから、私のせいではないぞ、決して。
「あー‥お腹痛い笑いすぎて」
「琴ちゃん笑いすぎだよ。流石に凹む」
「ごめんごめん、顔にあんなクリティカルヒットするの見たことなかったからさあ、どっかのアニメかと思っちゃって」
「リアルだから!」
味方が私にパスしてきたボールが1回バウンドして、一瞬見失ってしまったのだ。どこ行った?なんてふと下を向いたらバウンドしたボールが顔面直撃。お花畑が見えたのは初めてかもしれない。そのまま床にぶっ倒れて頭を強く打ち付け、気を失った私は琴ちゃんに保健室まで運ばれたらしい。そこだけ聞くと、彼女が出来るイケメン(女子)だと思う。
「来海の目も覚めたことだし、私先生に報告してくるわ。次の授業のノート写してあげておきますから、機嫌直してね」
「ありがと。笑ったことは忘れます」
「よろしい」
ん‥?なんで私が許されたんだ‥?にこにこしながら保健室を出て行く琴ちゃんに手を振ると、長い溜息を吐いて鼻をさする。あ、カーテン閉めてほしかった。‥っていうか、球技大会今年もあるのかな‥私死ぬんじゃないかな‥。
「先生‥って、‥‥知里さん?」
「あっ‥‥!あ、東峰君‥」
ガラリと扉が開いた先、必然と扉を開けた生徒と目が合った。ぼんやりしていた頭が急激に覚醒する。とても恥ずかしい、説明すらしたくない状況だ。どうしたのとは聞かないでほしいが、あの究極に優しい東峰君のことだ、絶対聞かれる気がする。
「ど、どうしたの?体調悪い?」
「恥ずかしいから聞かないでください‥」
「恥‥っ、ごめ!女の子、大変だよね‥!!」
あ、待ってなんかすっごい勘違いされてない?顔を焦らせて慌てているが、待て待てそうじゃない、女の子の日ではないぞ。逆に恥ずかしさが込み上げてきて、こちらも慌ててベッドから起き上がった。が、打ち付けた頭が痛んで白いシーツに逆戻り。案外まだ痛くて涙出そう。
「大丈‥!毛布、毛布いる?!」
「あの、」
「何がほしい!?」
「や、その、東峰君‥‥顔面にボール、ぶつけて、床に、頭を、ぶつけただけです‥」
蚊のなくような声で精一杯告げて、もうとにかく恥ずかしくて、布団を顔まで被った。顔から火が出てベッドが燃える、やばい、抱腹絶倒される‥!
「え、そ、そうだったの?!大丈夫?!今慌てて起き上がったから‥!」
‥ん?心配そうな声が聞こえるけれども。琴ちゃんとエライ反応の違いである。あれ?と思って布団から顔を出せば、本当に心配している(だろうと思う)東峰君の顔が割と近くにあった。どうやら布団の横にあった氷嚢を頭に乗せてくれようとしている、らしい。
「東峰君顔面にボールぶつけたことある‥?」
「いや‥‥‥ないけど‥でも痛いよね、絶対」
「ちなみにバスケットボール」
「うわ、それは痛い‥!」
「それで、ふらついて、床に頭打ち付けて」
「踏んだり蹴ったりだね‥」
「私運動苦手で、よくぶつけるんだ」
「そうなんだ」
「笑わないの?友達には凄く笑われたのに‥」
「笑わないよ。運動苦手だけどよくぶつけるって、頑張ってるってことだべ」
東峰君の方がイケメンだった、‥と言いかけて飲み込む。ふにゃりと顔を緩めた東峰君は、よいしょと椅子を持ってきて、ベッドの横に腰を降ろす。どうしよう、少女漫画でもこんな優しい人見たことない。
「‥東峰君も保健室に用事?」
「ああ、ちょっとテーピング巻き直そうかと思ったんだけど、‥まあ部活の時でもやれるし」
「巻き直していいから、気にしないでいいよ」
「‥知里さんと喋りたいからいいかな」
何それ。その理由なんか照れる!そう思っていたら、東峰君も照れていたみたいだった。あと5分で授業始まるけど、なんて声をかけられる筈もない。喋りたいからいい、なんて言いながら、その後会話したことと言えば、"今日のお昼ご飯は何だった?"だから笑える。どこの主婦の会話だ。
2016.11.26
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