「どうしよう次の授業バスケだ‥」
「あんたホントバスケ下手くそだもんね〜。今度はボール顔にぶつけて鼻血出さないでよ」
「琴ちゃんそれはさっさと忘れてほしい」

とあるお昼休み、ご飯を食べた後のぐだぐだした時間を適当に過ごしていた私は、「着替えに行くぜー」だとかテンション高めの男子を見て溜息を吐いていた。球技は苦手だ。特に、重くて大きいバスケットボールは無理。この間ドリブルを1回したらバウンドしたボールが顔面に当たって鼻血出したし。琴ちゃんあの時引きながら笑ってたんだよ。酷い。

「まだバレーの方がマシだよ‥」
「バレーボールは小さいし軽いもんね。でもアタック顔面に受けたら流石に鼻血出すだろうから気をつけてね〜?‥あ」
「馬鹿にしてるでしょ」

ケタケタ笑う琴ちゃんは突如全校放送された声に反応すると、忙しない様子で自分の机に戻ってバインダーを手に取った。驚くことなかれ、琴ちゃんは烏野高校の生徒会副会長である。進学クラスのトップを張っているし、言わずもがな頭も良いし、スポーツも万能。つまり、今の放送は副会長を呼び出す放送だ。

「ごめん、職員室行ってくるから戻ってくるの遅かったら先に体育館行ってて」
「はーい、頑張ってね」

パタパタと教室を出て行った琴ちゃんを見送って、顎を机に乗せる。いいなあ。皆は何かと趣味とか特技とか持ってるのに。この間東峰君が家まで送ってくれた時も思ったけど、何か出来るっていいなあ。高校3年生にして趣味も何もない私は一体‥進路も大学行くか就職するか、未だに悩んでいたりする。

「あーー‥」
「知里ー?顔どうしたー、元気ねーべ」

やる気のない声を出していると、ガタン、と私の目の前の椅子に腰をかけた菅原君が私の顔を覗き込んできた。おお近いな。少々心配そうな顔をした菅原君はヨシヨ〜〜シなんて頭を撫でてくれる。優しいメンズですね。私はペットか何かですかね。‥そう言えば菅原君、前にも増して最近毎日楽しそうだな。

「菅原君、部活楽しい?」
「ん?楽しいよ。面白い1年生入ってきたし、めっちゃ飛ぶのとか、天才セッターとか‥」
「めっちゃ飛ぶ?天才セッター‥?‥‥あれ、菅原君もセッターていうポジションだよね?」
「うん。‥‥正直まだビビるし敵わないし、悔しいけど、すげーんだ」
「えっと、それでも楽しいの?ポジション争い‥になるよね‥?」
「そりゃ悔しいけど、バレー好きだからな!俺、負けるつもりもないし」

物凄くキラキラした良い笑顔。‥やっぱりいいなあと思う。本気でやって、本気で楽しんでる。‥羨ましいなあ。

「んで、知里は何に病んでるの?新学期まだまだ始まったばっかじゃん」
「あ‥いや、その‥‥私趣味とかなんもなくって‥‥この間東峰君と帰った時も、東峰君部活のこと話してる時すっごいキラキラしてて‥」
「‥旭と一緒に帰った??」
「あっ!!うん、その、不甲斐ない私を大変心配してくれて送ってくれたというか!」
「へーーえー‥あの旭が‥?もしかして先帰っていいよって言った時かな。旭の癖に‥」
「‥凄く羨ましかったよ。私には夢中になれるようなことないし‥」

最近図書室で勉強するのが日課になってるくらいだし。‥うわ、それを趣味にするのはやだ。

「夢中になれることなんて、これから見つければいいべ」
「へっ?」
「夢中になれるようなことってすぐ見つかるもんじゃなし、俺達はバレーがそうだっただけで、知里にも必ずきっかけが絶対あるよ」
「そうそう。あとはそれを掴める好奇心、だな」
「大地、チョリソードッグあった?」

にこやかに笑って教室に帰ってきた澤村君は、私達の会話が聞こえていたのか、左手に購買で買ったパンの袋を抱えながらニッと笑う。"それを掴める好奇心"‥不思議とその言葉が、私の心にするりと溶け込んだ。

2016.11.15

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