「知里!もう大丈夫かー?」
「大丈夫だよ‥って、菅原君部活は?」
「保健室寄ってから行こうかなと」
「菅原君も怪我したの?」
「ちげーべ!知里が心配だったんだよ」
「うっ‥それは面目無いです‥」

おっと、またヨシヨシか。優しく頭を撫でられて、私はふと上を見上げてみる。‥お兄ちゃんがいたらこんな感じなんだろうなあとぼんやり思っていたら、菅原君とばっちり目が合った。相変わらず涙黒子、可愛いよね。お兄ちゃんじゃなくて、もしかしてお姉ちゃんかもしれない。言ったら怒られるだろうけど。

「え、何、俺顔になんかついてる?」
「ううん。お姉ちゃんいたらこんな感じかなあと‥間違えたお兄ちゃん」
「‥‥‥その言い直しは菅原さん傷付きます」
「ふふっ、ごめん。部活行っておいでよ、お見舞いありがとう」

むすっと唇を尖らせた菅原君に思わず笑うと、後頭部が少しだけ痛んだ。てか本当恥ずかしいよねえ。顔面ボールからのぶっ倒れて床に頭突きとか‥。ほとほと自分の運動神経の悪さというか運の悪さというか云々。無意識に後頭部へと手を伸ばして、痛みを押さえようとしたけど、その後頭部には既に菅原君の手があった。いつの間に後頭部に、手が。

「ここ痛いんだろ。日島が"凄い音した"って、"相当痛かったと思うよー"って。」
「たんこぶ出来てるかも‥」
「あ、これ少し腫れてるな」
「いた!」
「ごめんっ」

そっと菅原君が触れた1点が物凄く痛くて驚いた。寝ていた時は気付かなかったけど、触るとこんなに痛いのか。当分髪纏めたりっていうのはできそうにないなあ。心配そうに私の顔を覗き込んでいる菅原君に、大丈夫だからと顔の前で手を振った。

「運動苦手なのに知里はいつも真面目に頑張るよな。運動に限っただけのことじゃねーけど」
「に、苦手は苦手なりに頑張らないと皆の足を引っ張りますからね‥特に集団系は‥」
「‥‥俺、知里のそういうとこ凄い好きだよ」

女子が好きそうなことをよくそんなさらりと言えますね‥。菅原君にからかわれるなんてよくあることだから、ついつい"好き"という言葉だけで赤くなりそうな頬を精一杯気持ちで抑えて、ありがとうとお礼を述べる。菅原君いっつもこんなんだけど、他の女子に勘違いされないだろうか。私は彼をよく知ってる(つもりだ)から大丈夫だけど。

「知里。‥あのさ、今日、‥送るからその‥部活終わるまで待っててほしいんだけど‥」
「後頭部の心配はしないで大丈夫だよ。それに菅原君反対方向でしょ」
「後頭部の心配っつーか‥いやまあ、そうなんだけど‥てかホント知里って‥‥はあ‥‥」

くるりと私に背中を向けて、明らかに呆れた溜息を零す菅原君に首を傾げた。3年生に上がって、ここ最近送るから送るからって心配されることが多いな。いやまだ2回しかないけど。しかも下心ではないけど。

「おいスガ、ランニング始めるから早く正門‥お、知里!体調はもういいのか?」
「大丈夫!ごめんね、菅原君お返しします!」
「おう、知里も気を付けて帰るんだぞ。無理はするなよ。ほらスガ、皆待ってる」
「あ、おう‥‥」

何かをもごもごと言おうとした菅原君を、突如として現れた澤村君が強制的に正門へ連れて行く姿を見ながらこっそり一息ついた。待ってた方が‥いや、結局約束する前だったしいっか。そんなことを考えながら机の中に入っていた、琴ちゃんお手製のノートを手に取る。さすが副会長、綺麗に纏めてあります。ただ1つ、英文を筆記体で書くのは解読に困るから普通に書いてほしかった。琴ちゃんの英文が落書きにしか見えない。

「‥‥あ、」

ふと運動場へと目線を向けると、大きな身長が目に付く。一人は金髪の男の子で、もう一人が東峰君。頭がツンツンの小さな男の子に背中をばしばしと叩かれて痛そうだが、ほんわりとした笑顔を向けて楽しそうに会話をしている。

「‥‥かわいい」

心臓が少しだけきゅう、とする。あの優しい顔にとても癒されてしまうというかなんというか。これがあのギャップ萌えというやつだろうか。頬っぺたが緩んでる気がして、がばっと鼻まで覆い隠した。

「なーーーーに、誰見てニヤニヤしてんの?」
「っひ、琴ちゃん!!?」
「せーっかく合コンご用意してる所だったのに、誰かに目を奪われてたでしょー。生徒会早く終わらせた甲斐があったわあ〜」

2016.12.06

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