「あと何がいるんだっけ?」
「食器は買ったし、枕もあった、タオルとかもあるし‥マシロ用の毛布もある、ペットフードとかも大丈夫‥あとは‥」

衣類。と、下着。言いかけて口を閉じた。赤葦君の手には、食品店で買った食材と食器がごちゃごちゃと包まれているビニール袋が2つ。今はとりあえず備え付けのカフェで休憩しているところだ。もちろんだが、マシロはお留守番中である。

「とりあえず2、3日分だけの服とか下着買っておいたら?この大荷物だし、一気には持って帰れないよ。俺が車持ってたら良かったんだけどペーパードライバーだから。ごめん」
「い!!いいよ、付いてきてくれるだけでもほんと助かったし‥1人だったらこの量は持てなかったから」
「まあ、そうだろうね」

頼んでいたビターのチョコレートケーキを食べながら笑った赤葦君は、ごちゃごちゃになった袋の中を適度にまとめている。しっかりしてるなあ。私はマンゴームースを食べてどんな服を買おうかとiPhoneで検索中だ。‥何がいいかなあ。今ってどんな服が流行りなんだろう。あんまり気にしたことなかったから、この際女の子っぽいの揃えてみようか。ちなみに赤葦君はどんなのが好きなんだろう。‥聞いてみるか。

「ね、赤葦君」
「ん?」
「赤葦君はスカートとパンツ、どっちが好き?」
「俺?どっちが好きっていうか‥似合っていればどっちも好きだよ」
「ええ‥参考にならない‥」
「俺の参考にしたら俺の好みになるよ」
「あ、‥‥ええ‥まあ‥」

なんか私安易に聞きすぎた?なんだかこれだと、「赤葦君の好みにしたいから教えてください!」って言ってるようなものじゃない?うわっ、恥ずかしい‥!誤魔化すように大きめに切ったマンゴームースを口に入れると、私の顔をじっと見ていた赤葦君が思いついたように視線をマンゴームースに向けた。もしかして‥食べたいのかな。

「‥食べる?」
「いや、そうじゃなくて‥小鳥さんってそういう色のスカート、似合いそうだよね。何色っていうの?それ」
「マンゴーのこと?なんだろ‥からし色‥?」
「それ。なんかこの間テレビで言ってたけど、ステップドヘム?っていうデザインのやつでからし色とか。好きかも」
「す‥すてっぷど‥なに‥?」
「前と後ろで長さが違うことを言うんだって。ステップドヘム」

へえ。というか、よくそんな言葉知ってるなあ。おしゃれ男子か、赤葦君。おしゃれ男子か!!そういう赤葦君は、オシャレな薄い青のデニムアンクルパンツに白とライトグレーのストライプが入ったシャツを着ている。羽織に使っている麻のカーディガンがよくお似合いですね。おしゃれだからかっこよく見えるのか。かっこいいからおしゃれなのか。私にはもう分からない。とりあえずかっこいいということはよく分かった。

「な、なんか‥そんなデザイン性の高いスカートなんて普段使い出来なさそう‥」
「いいじゃん。俺と出掛ける時だけ着たら?」
「な、何言ってんの、私は大学にも普通に着ていけそうな感じの私服をですね‥!」
「ぐっ‥ふ、ははっ‥!冗談だって。ほんと小鳥さん面白すぎるんだけど」
「‥‥」
「うわ、変な顔」
「誰のせい!」

だからごめんって。さも悪気がなさそうに言った赤葦君は、食べ切ったお皿を確認すると私の分まで一緒に下げていってしまった。いつも1枚上手な彼に、私は溜息を吐くしかない。出会った当初から優しかった赤葦君は、一緒に住み始めてみても変わらない。ただ、少し意地悪にはなったけど。

「行こう。買うんでしょ、スカート」
「えっ!勝手に決めないでよ、まだスカート買うかなんて私は決めてないもん!」
「そうなの?てっきり買うのかとばっかり」
「‥そんなスカートなんてドレスコードだし」
「迷ってるんだ?小鳥さん単純。可愛い」
「ちょっと!最初の一言いらないよ!」

多めの荷物を2人で持って、専門店街に足を向ける。火事になったことは本当に泣きそうだった。けれど、赤葦君のおかげでこれから楽しくなりそうだと感じた。もちろん、心臓のドキドキはしばらく続くだろうし、期間限定のルームシェアだけど。

2017.04.28

prev | list | next