「‥‥」

どうしよう。昨日、どうやって寝たのか全く覚えていない！！

時計を見ると、まさかの深夜２時である。布団にもぐって２時間は経ったけど、未だに目も脳も覚醒中。私と同じくらいから布団に潜っていたマシロは、なんの緊張感もなく寝ているようだ。というか私はなんで昨日あんなに自然に寝れたのだろうか。何回言えば分かる。ここは私の家ではなく赤葦君のマンションなのだ。８畳のリビングと、扉で仕切られた３畳程の部屋。私は８畳のリビングで布団を敷かせてもらっている。しかも、扉で境界線ができているとはいえ、向こう側には赤葦君がぐっすりと寝ていらっしゃるのだ。

どんな顔で寝ているのか、どんな格好で寝ているのか気になる。寝相は悪そうじゃない気がするけど、すっごいあどけない顔して寝てそうなんだよなあ。‥可愛い。

「駄目だ‥寝れない‥」

暇だし、必要な物を揃える為のお金がどれくらいかかるのかを考えておこう。そう決めてiPhoneを取り出して、メモを開くとこっそりぽちぽちと文章を打っていく。服は絶対いる。３日間も同じ格好するのは無理。食器とかいるかな。枕は合うのがいい。マシロのちゃんとしたペット用のソファとか、ちゃんとしたトイレ。食材とか光熱費系は半分払わせてもらおう。あとは収納ケースとか？‥って、ずっと一緒に住むわけじゃないんだから必要最低限にしないとだめだ。あとは？あとは‥‥下着か。

‥下着、どこに置く？












「小鳥さん隈がすごいよ」
「知ってる‥あんまり見ないで」

結局色々考えていたら寝れなくて、ごそごそと赤葦君が起きる音でなんとなく寝たふりをして１０分程で起きたふりをした。赤葦君に断りを入れてから作ったトーストと目玉焼き、そしてカリカリに仕上げたベーコンをお皿に盛って一緒に食べていると、彼は私の目を見てそう言ったのだ。

「眠れなかった？」
「んん‥あんまり」
「まあ、そうだよね。昨日はよく寝てたけど」
「そう、‥でも昨日、どうやって寝たのか全く覚えてないんだよ」
「疲れてたんだって。色々あったから」

薄ら笑いながらぺろりと食べ終えた彼は、ご飯の匂いで起きてきたマシロを抱き上げて自分の膝の上に座らせた。にゃんにゃんと戯れるマシロをひっくり返してお腹を撫で回している。 ‥だから。お前は。何故。ずるい。

「買い物。行くんでしょ？付き合うよ」
「え！！？い、いいよ私１人で！！」
「なんで？どうせ食材は買わないといけないし。一緒に行った方が早いじゃん」
「だだって！あの‥‥し、‥インナーとか‥」
「いや流石に下着売り場に入る勇気はないよ」
「あ、‥そうですよね。ですよね、そうだ」
「ちなみに俺は白が好きかな」
「白？‥って別に聞いてないよ！！」
「そう？聞きたいのかと思ったのに」

この人は本当にいつも余裕がある男だ。意地悪そうに少しだけ口端をあげて、 私の表情を確認するように綺麗な目を向ける。まあ、その間に私はトーストに齧り付きながら視線を逸らすわけだけど。

「頬っぺたについてるよ」

カリカリに焼けたパンの耳が。そう言われた瞬間頬にざりりとした感触がして背筋が震え上がった。ザリザリしてるとは聞くけど、本当にザリザリしてるんですね、猫の舌は。赤葦君、パンの耳を取る役目をマシロにやらせないでください。‥別に赤葦君に取ってもらいたいわけじゃないもん。

「赤葦君もついてる！」

負けじと対抗して手を伸ばすと、取ってくれるの？と言わんばかりににこやかに笑っている。ああもう、まだ当分勝てそうにないなあ。伸ばした手が触れる前に、赤葦くんはしびれを切らして自分の手で汚れを取っていた。

2017.04.21