「ご、ごめん!もしかして当たった!?」
「や、撃たれたと思ったら、転がってきて‥」
「う、撃たれた‥?!怪我は!?」

慌てて後ろを見たり前を見たりする東峰君を見て、いや、だから私の感違いだよ、こんな所にヤクザやマフィアはいないよとツッコミそうになったけどやめた。東峰君を一度でもヤクザだと思ったことがあるからだ。

「その、凄い音したから吃驚して。‥多分、こう、バレーのアタックした音だよね?」

そう答えて腕をぶんと振る真似をしてみれば、ぽかんとした後にはっとしたような顔をして、うわああ俺のせいで吃驚したんだよね!?ごめんね!?なんて、両手を合わせて必死で謝り倒してくる東峰君の姿に思わず笑ってしまった。

「ふふっ」
「あ‥その、怪我はしてない、んだよね‥?」
「してないよ。もう‥‥なんか東峰君外見とイメージ違うね。そこも驚いた」
「うっ‥‥よく言われる‥」
「はい、ボール」
「ありがとう、本当にごめん‥」
「ううん。あの、‥ボール打ったの東峰君?」
「え、ああ、うん、そうだよ。まさか外に出るなんて思ってなかったんだけど‥」
「すっごい音してたから、打った所ちょっと見て見たかったなあ‥」

東峰君は身長も大きいし、外見と相まって迫力があるんだろうなあ。想像するとふるりと背中が震えた気がした。東峰君が打ったボールは手に当たったら折れるかもしれない。半袖のシャツは二の腕が全部丸見えになるくらい捲り上げられていて、とても逞しいから、なんて。「見て見たかった」と言葉を零せば、わたわたとする東峰君の顔が面白くてまた吹き出した。

「そんなに可笑しい‥?」
「ふふふ、ごめん、ふふ」
「‥。あ、えっと‥今、帰り?」
「うん。図書室で勉強してたの」
「もう暗いし一人じゃ危ないよ」
「夜道は慣れてるから大丈夫!」
「だ、駄目だよ、最近変な事件も多いし‥スガに言っておこうか?」
「や、菅原君反対方向だから」
「じゃあ俺が送るよ、もう部活終わるからそこで待ってて」
「え、」

お父さんか。
いや、本当に大丈夫だから、なんて言う暇もないまま東峰君はボールを持って体育館に戻って行く。ええ‥いいのに‥本当に‥。

「‥」

とは言え、本当に暗い。ここは学校だから電気がまだ点いているしいいけど、田舎道の電灯や光の無さは洒落にならない‥かもしれない。そう考えたら東峰君のお言葉に甘えておいた方がいいかもと思い直して、近くの花壇に腰を降ろした。それにしても変な人だ。外見はとても怖いけど、中身はとても心配性で優しい。












「‥あ」

ワイワイ、ガヤガヤと体育館から人がたくさん出てくるのが見える。体育館に行くべきだろうか、それとも待つべきだろうか。立ち上がろうと思っても、前方にいる黒髪とオレンジ髪の少年2人が歪みあっているのを見て、なんとなく今行くべきじゃないなと足を止めてしまう。何アレ、なんであんなに仲悪そうなの‥同じチームメイトなんじゃないの‥

「あれ?旭帰んねえの?」
「悪い、俺ちょっと‥先に帰ってていいから」
「?んじゃまた明日な」

あ、菅原君と澤村君らしき人の声が聞こえる。東峰君もいるみたいだ。大所帯の中から1人だけ外れて小走りで近付いてくる姿が見えてきて、慌てて立ち上がった。

「ごめんね、待たせて」
「う、ううん‥こっちこそごめんね、なんか」
「えっと、知里さんお家どっち?」
「あ‥こっちだけど‥東峰君は?」
「気にしないでいいから、帰ろう」

気にしないでいいから?気にするに決まってるじゃないか。でも東峰君がそうやって優しくへにゃりと笑うから、私は結局何も言えず背の高い後ろ姿を慌ててついていくしかなかった。

2016.10.22

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