「相変わらず仲がよろしいですなあ」
「琴ちゃん面白がってるでしょ‥」

日島琴。身体は大人、知能も大人、思考回路は子供っぽい。あ、悪口ではありません。高校2年生の時に同じクラスになってから仲良くなった、所詮親友と言い合える仲で、趣味は菅原君と私の仲を弄ることらしい。

「だってスガ君からあんなにくっつかれて取り乱さない女子生徒なんてあんたくらいなんだもん。ヨッ、天然記念物!」

お昼ご飯の卵焼きを頬張りながら、どっかの祭りにきたおじさんみたいに手を頬っぺたにつけて大きな声を出すと、琴ちゃんは可笑しそうに笑った。

「菅原君は仲良くなった頃からあんななんだもん。多分本当に私と血が繋がってるって思ってるんじゃないかな‥」
「偶にあんたらが同性に見えるんだよねえ」
「女子の方だよね‥?」
「?当たり前じゃん」

至極当然のように言われたのでほっとして胸を撫で下ろす。これで男の子の方って言われたら、食べかけの回鍋肉全部顔に散らかしてやる所だった。そんな噂をされていることも知らないだろう菅原君は、先程澤村君と別クラスの東峰君を連れてどこかへ行っていた。

「でもさあ、実際の所来海って初恋まだなわけじゃん?スガ君が駄目なら一体どんな人にこう、ビビビッとくるの?」
「え‥?そんな、急に言われても‥」
「爽やか系が違うなら‥ワイルド系?」
「ワイルド系‥?」

「エッッッ‥‥!!そ、そんな、怖くないし、あ、髭?髭はその、ちょっとワイルドになりたかっただけで、別にそんな‥」

ワイルド系‥そう言われて思い浮かんだのはやはり‥東峰君だった。けども。

「‥いや、どうかな‥違うと思うよ‥」

ごめん、東峰君‥。なんとなく心の中だけで謝ると、水筒のお茶を手に取って口の中に流し入れた。だって怖い人、苦手だもん。言えば、優しくて、ちょっとした我儘も笑顔で叶えてくれて、例えば私も優しくなれる人がいいなあ、とか。

「ワイルド系ってあれでしょ‥?壁ドンとかして、"お前俺のこと好きなんだろ"ってドヤ顔で言っちゃうような、オラ‥いやオレオレ系‥?」
「‥漫画の見過ぎじゃない?」
「えっ‥そうなの‥?」
「まあいいや。とにかく高校生活最後なんだからさ、頑張って初恋は済ませておこう?」
「初恋って頑張ってするものじゃないよね」
「そんなこと言ってると30過ぎて40過ぎてとうとう貰い手いなくなっちゃうんだよ!1人寂しく死んでいくとか辛いでしょーが!!」

一体琴ちゃんの過去に何があったというのか。そうと決まれば合コン合コン!なんて、携帯を取り出した琴ちゃんは物凄く楽しそうだ。初恋。恋。‥彼氏、かあ。なんかこう、ゆっくり時間をかけるような恋愛がいいなあ。私だけなのかな。それとも、そんな恋愛に夢を見過ぎなのかな。

「片想いの辛さ舐めんなよ来海‥」
「ギャッ‥口に出てましたか‥?」












「すっかり遅くなっちゃった」

ぼんやりと暗くなった空を見ながら溜息を吐いた。特に部活もしていないのに、教室で長々と課題をしていたら遅くなってしまった。家に帰っても集中できないし、教室でやった方が捗るから残っていた筈だったけど、結局半分程しか進まなかった。

「!」

靴を履いて外に出ると、スパァン!!と物凄い音がして、思わず撃たれたのかと胸に手を当てる。び、びっくりした‥キョロキョロと辺りを見回すと、どうやら音の出所は体育館だったらしく、外にボールが転がっていた。

「‥バレーボール?」

じゃあバレー部かな。ここに置いておくのも困る気がして、私はそっと体育館に近付いた。近くに菅原君とか、いればいいけど‥。そうして数分後、誰も出て来る気配がないので体育館のすぐ側にでも置いておけば誰か気付くだろうと、ボールを隅に置いた瞬間、

「‥あれ?」
「ビゃ!」

汗だくの東峰君がタオルで顔を拭きながら、私を見下ろしていた。

2016.10.19

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