「あ〜‥」
「にゃ〜」
「にゃ〜じゃないからマシロ‥これ本格的にどうしようだから‥」

赤葦君より一足早く授業が終わったので、私は先に赤葦君の家に帰宅。そして先程大家さんと電話して、住んでいたマンションのことと、これからの仮家をどうしたらいいのか聞いてみた。約30分間の電話で、私は本当に路頭に迷うことになったのだ。

「私馬鹿だったなあ‥」

まあ1つ目に関しては私が全面的に悪い。まさかないだろうと、勧められた火災保険に入ってなかったのだ。本来なら入るべきの保険だが、お金の工面を心配していたので、入らなくていいならば、という個人的な見解で入らなかったのである。そして仮家の方は、一応何個かマンションを持っていた大家さんだったが、残念ながら場所が遠く、大学に通うには辛い距離だったのだ。いや別に距離は最悪どうとでもなるが、問題は交通費。‥‥馬鹿にならない。

赤葦君の部屋の机の上で、赤葦君の勉強道具を開いていたが、残念ながら頭に入る余地も無さそうだ。路頭に迷うとか‥まだ20歳にもなってないのにホームレス状態とかやばくない‥?バイトも今の所お休みを貰っている。私の周りは良い人で出来ていて非常に助かるけど‥ああ‥なんかしんどい‥

「ただいま」
「赤葦君、お帰りなさい‥」
「‥?なんか顔色悪いけど、大丈夫?」
「うん‥多分現実に頭がついていってないだけだから‥」
「そうだ。大家さんに電話は出来た?」
「赤葦君私ホームレスになる‥」
「いやホームレスになるくらいならうちにいてくれる?マシロも泣くよ」
「にゃ〜!」
「ほら」
「"泣く"の意味違うと思う‥」

ばさりとカジュアルめのジャケットをハンガーにかける赤葦君を見ながら、有り難い反面申し訳ない気持ちが膨らんでくる。どうしよう‥服もない、下着もない、お金は今の所大丈夫。‥けど、本当にお世話になっていいものなのか。いや多分駄目だ。だって女の子ならまだしも、赤葦君は男の子なのだ。私の好きな人と言えど。私がいると彼女が出来なくなってしまう‥そういう漫画を見たことがある。

「赤葦君、私やっぱり他の安いとこ探す」
「マシロは?ここ以外でペット可のマンション探すと結構高いよ」
「う、」
「お金払えなくなって追い出されたらどうするの。バイト増やすって言ったって、学生の基本は勉強でしょ」
「だって‥」
「別に俺はいいよって言ってるんだから。落ち着くまでは居たらいいじゃん」

ねえ、なんて言う赤葦君の腕の中で、ボケるみたいに「にゃあ」と鳴き声を返すマシロ。この言い合いは、多分ずっと平行線だ。深く溜息を吐いて、赤葦君の目をじとりと見返す。‥くそう、かっこいいなあ。私の心臓、ちゃんと保ってくれるだろうか。毎日ドキドキしすぎて死んだりしないだろうか‥。実際は、そこが一番心配だったり、なんて。

「‥彼女さん出来たらちゃんと言ってね」
「なんの心配してんの」

呆れ顔で笑った赤葦君は、そのまま私の頭を撫でるように触れた後、マシロを連れてお風呂場へと行ってしまった。‥え。一緒にお風呂入るつもりなの?なんか凄く疎外感‥

「‥‥小鳥さん、もしかして一緒に入りたいの?俺はいいけど」

‥って!馬鹿じゃないの私!!赤葦君と私が一緒にお風呂になんて入れるかーーっ!!て髪の毛をわしゃわしゃとしていたら、少しだけニヤついた赤葦君が振り向いた。

「違うから!!」

‥ほんと、からかうのはもうちょっと心の整理がついてからにしてほしい。

2017.04.15

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