「えっ‥‥ちょ、待って赤葦君。泊まるって‥泊まるってここに‥?!」
「そう」

いやいや、そうってなんなの?涼しい顔しすぎじゃない?私一応女の子なんですけど、邪な理由なんて本当ーーになんも思ってないってことかな?わあ悲しい!確かに有難い提案ではあるが、なんというかあれだ。‥恥ずかしさしかない。だって、‥いやだって。赤葦君のマンションですよ。泊まるったって一体いつまでお世話になることかも分からないのに。その辺全部考慮して言ってるのかな?この人は。

「野宿がいいなら泊めないけど」
「ううん!!?それはもうほんと!!有難き幸せですけど!!あの‥!でも‥‥」
「‥もしかして変なこと考えてる?」

頬っぺたにするりと滑る赤葦くんの手は女の子みたいに綺麗だ。‥って、ヤバイ、これもしかしてあれじゃない‥?大学に入ってすぐの、間違いを起こしてしまうパターンのやつ。テレビで見たことある。酔った勢いとかで、相手の家に行って朝起きると裸でしたっていうアレ。いや私も赤葦君もギリギリ未成年だし酔う要素がまず、ない。

ビシリと固まった頬っぺたを撫でた赤葦君に心臓が爆発しそうになっていると、ぎゅっと頬肉を摘まれた感触。‥‥‥ちょっと!!

「いな"!!!?」
「変なテレビの見過ぎ。住む家のなくなった女の子を見捨てられるわけないでしょ、俺はそこまで鬼じゃない」
「あ"う‥」
「それとも何、‥ちょっと期待したとか」
「赤葦君いじわる!!!」
「あ、少しは元気出た?」

なんともおかしそうに笑った赤葦君は、そのまま食べ終わった私のカレー皿を流しに持って行く。以外。結構笑うんだ。‥‥しまった、ご馳走になったのに下げさせてしまった!慌てて後ろをついていけば、今度は真っ白いTシャツを投げられる。今話題のビッグシルエット‥‥いやさすがに大きくないか。もはやミニワンピみたいなこれを着ろって?

「そのカレーの染み、早く洗わないと落ちなくなると思うけど」

成る程。その言葉で思い出したが、私の白いドレープTシャツにはカレーが付着していたのだ。‥ん?ということは、洗濯機を使っても良いということか?‥多分うちのと違う洗濯機。使い方が分からなくて呼ぶのも申し訳ないので、手洗いにしようかな‥。

「ああ、シャワーも浴びてきたら?布団はなんとかするから」

脳内状況整理が出来ない。しゃわー?ふとん?‥ダメだ、赤葦君のおうちに私のようなものがいるなんて‥好きだからこその変な妄想が膨らむばかりである。本当に何かの間違いでもあったらどうしよう‥いやそれはそれでなんか‥棚からぼたもち的な‥?‥ハッ!!てかすっぴん!すっぴん見せられなくない!?でも髪の毛は毎日洗っておかないと人として終わってない!!?でもすっぴん‥!でも髪の毛‥!!ああカレーの染み‥!!下着は!?どうする!?今穿いてるの穿くしかないけど‥!!

「百面相しすぎ」
「ひゃああ!!!」
「まあ色々困惑してると思うからお風呂でもいいけど。ちょっと入れてくる」
「あ、その、おかま、おかまいなく‥、‥」
「‥小鳥さんが無事でよかった。マシロも」

ほっとした顔は驚く程に緩んでいる。そんな赤葦君がお風呂場へ向かうのを見送った後、緊張しすぎて腰が抜けたのか床に座り込んでしまった。擦り寄ってくるマシロは、どうやらこの家の居心地が良いらしい。赤葦君にも何故か懐いている。

「もう‥なんなのよマシロ。なんで赤葦君に拾われちゃってるの、空気読んでるの?読んでないの‥?」
「にゃあーお」
「ああーー‥‥もう‥ほんとどうしたら‥‥」

通帳やお金は全部持ち歩いていて本当に良かった。とりあえずお風呂に入って落ち着いたら、あのマンションの大家さんに住む所がどうなるのか聞いてみよう。それまではとにかく、‥‥付き合っているわけでもない赤葦君に甘えるしかないのだ。

2017.03.11

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