「あれは夢なのかもしれない」

自分の第1声で酷く落ち込んで頭を抱える。ここは自分の部屋であり、自分のベッドだ。昨日は確か烏養さんの部屋で、烏養さんの知り合いの人達とお酒を飲む会の筈だったと‥思う。その後起きた出来事に、私は思わず顔を茹で蛸みたいに赤面させてしまうことしかできなかったわけだけど、そうして冷静に考えてみたら後半の記憶がないのだ。どうやってここまで戻ってきたというのか。むしろ昨日のは夢だった、が濃厚かもしれない。実は飲み会をしていたという夢、もしくは、途中からの烏養さんの言葉は自分の妄想だった。‥だめだ、いただけないこれはかなりキツイ。

「今何時‥」

iPhoneを確認してみるともう昼の13時で、もう1日の半分が過ぎようとしている。慌てて鏡で確認してみれば、ほとんど崩れていない化粧と若干乱れた服。ウォータープルーフ様様だ。‥にしても、どうしようもし本当に妄想という名の夢だったら滅茶苦茶凹む。いや、‥妄想の確率がかなり高いのでは‥?

「‥てか私本当にどうやって戻ってきた‥?」

ちゃんとベッドの中で寝ていた状況、つまり鍵を開けたということ。鍵開けられるのなんてどう考えても私しかいない訳だから、まあ‥ちゃんと家までは自分の意思で帰ってこれた。‥‥ということにしておこう。それより私、家の鍵ちゃんとかけてるのかな‥。少し不安になって玄関に駆け寄ると、なんの脈絡もなくガチャガチャと鍵を開ける音が鳴り響き、玄関のドアが開いた。‥え!?

「っぎゃあああああああああ!!!」
「うおっ!?なんだ!?」

突然現れた金髪頭に、思わず履いていたスリッパを手に取った私。そうしてそんな私に大層驚いていたのは、片手にビニール袋をぶら下げた烏養さんだった。な、なにやってるんだこの人!!そして片手にはギターを形作ったキーホルダーと、この部屋の鍵。つまりマイハウス・キー。なにやってるんだこの人!!(2回目)

「ど!?どうしたんですか!!?」
「いやどうしたんですかっつーか‥昼飯?」
「昼飯!?あ、まあお昼ですもんね‥じゃなく!いやじゃなくというか、‥あれ?昨日の妄想という名の夢じゃなかったの‥?!」
「お前‥‥そうくるだろうなーとは思ったけどよ‥まあいいや。とりあえず入れてくんね?」
「え、いや、はい、あの、どうぞ‥」

ギクシャク。‥というよりはガチガチになって、ロボットみたいに動き出す私の体は一体どうなっている。さっきまでフラフラナヨナヨしていたじゃないか。せめて着替えたい。昨日のままの格好で、ちょっとヨレヨレとか。ウォータープルーフだけが唯一の救いだ。

「おにぎりとか買ってきたけど、何食う?鮭とおかかと梅とー」
「‥‥‥‥‥あの、梅」
「ん」

梅。じゃないよ私のバカ!!!手渡しで受け取った梅のおにぎりに、私のお腹が小さく鳴って死にたくなった。‥‥昨日のこと、あまりにも衝撃すぎて、たくさん飲んだというのにしっかり脳裏に映像が焼き付いている。夢、じゃないんだよね。妄想じゃなかった、でいいんだよね?一口おにぎりを齧って、そっと彼の顔を見上げてみる。

「‥っ、」

‥今までに見たことないくらい優しい顔してる。やめて。一瞬で顔を定位置に戻した。

「なんだよ、そんなあからさまに」
「あ、‥いや‥‥その、お恥ずかしい‥」
「そうか?俺は今すっげー嬉しいんだけど」
「嬉しい、とは」
「片思いが報われるってのは、幾つになっても嬉しいもんなんだなってことだよ」

素面でなんてこと言うんだ。肩肘を丸テーブルにつきながらニッと笑った顔に、私の心臓が痛い痛い!と叫んでいる。これは嬉しい悲鳴だ。おにぎりが喉を通らない。無理矢理飲み込んでみたけどだいぶ塊だった。

「え、あぇ‥」
「‥変な声出てんぞ」
「う、烏養さんは何故ここに‥」
「簡単に言うと水城さんが腕を離してくれなかったからだな」
「すみませんっ!!!!」
「いいって。俺も2人になりたかったけど嶋田達いたし、結果オーライってやつ」
「お、お味噌汁もらっていいですか!!」
「ぶはっ!いいよ、お湯沸かしてくるわ」

何か話題はないかとビニール袋から見えたお味噌汁のパッケージに指を差すと、何故か私の部屋の台所を熟知した烏養さんが席を立って去っていく。私が行けばよかったのに、何やってんだ。要は、だいぶ現実についていけていないらしい。‥頭痛い。

2017.04.25

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