「烏養さん昔は坊主だったんですねー。ふふ」
「何笑ってんだ」

周りには酒に潰れてしまった屍だらけになっていて、起きているのは私と烏養さんだけ。起きているとは言っても、私は少しふわふわしているから酔ってはいるのだろうし、烏養さんは頬っぺたが赤い。あんまり強くはないんだなあ、そんな強そうな顔して可愛いのがたまらない。先程滝ノ上さんから見せてもらった写真、あまりにも今のイメージと違いすぎて笑った。でも顔はそんなに変わってないから、髪型の印象とはすごい。

ちびちびと最後のイチゴのカクテルを飲みながら、飲み屋のおじさんみたいにさきいかを口に入れる。隣で烏養さんの温度を感じるのがなんだかとても心地よくて嬉しい。色気付いて普段着ることのないオフショルダーとか、化粧とかを変えてみてよかった。ちゃんと見てくれているのかが気になるところではあるけど。

「つーか、水城さんもそんな格好すんだな」
「女子大生ですよ。しますよ〜‥子供扱いしたらだめですよ〜‥」
「してねえよ。普段そういう格好見ねえし‥」
「見ないからなんですかー‥?」

それを最後に口籠もった烏養さんはがしがしと頭を掻くと、擬音を発しながら手元のビールを口にした。見ないから、なんだ。気になる。可愛い?綺麗?それとも似合ってない?机に寝そべって下からじぃと覗き込んで、どんな顔をしているんだろうかとドキドキしながら見てみると、おでこの真ん中に、ぎゅっと眉間の皺が寄っていた。

「あー!今日のお前なんなんだ、大人をあんまりからかうんじゃねえよ‥!」
「あ、いえ、からかってるわけじゃなくて。‥初めて一緒に飲んでるからか、なんか可愛いなって‥そんな怒らないでくださいよー‥」
「怒ってねーよバカ‥」

頭にぼす、と乱暴に置かれた手にくしゃくしゃと髪の毛を撫で回される。やっぱり子供扱いしてるじゃないですか‥。むすくれて口を尖らせていると、烏養さんの喉仏が上下に動いたのが見えた。なにそれ、たったそれだけで異様にかっこよく見えるのはなんなの。ぼんやり見惚れていると、ビールの匂いが鼻を掠めていく。

「え?」
「‥‥‥好きなんだけど」
「‥え!?」
「バカ!しッ!!」

ちょっ‥と待った。突然顔が近くなったと思ったら、鼻がぶつかる距離でそう言われて思考回路が一旦停止した。慌てて口を閉じて、周りの状況を再確認。皆ぐっすり寝てる。私の後頭部には烏養さんの掌があって、どうやら固定されているらしい。‥‥自分って案外冷静になれるんだな。その前に今烏養さんなんて言った?

「う、烏養さんの方が煩いですよ‥!」
「あ、わり、!‥‥で、どうなんだ、‥逃げる気ないなら肯定ってとっちまうけど‥」
「いえ、あの‥‥‥‥私も好きですけど、」
「‥‥‥‥。‥マジかよ‥や、なんかなんとなくさっきから感じてはいたけど‥マジか‥‥マジかよ」

唇が触れ合いそうな距離で、マジかよを連呼する烏養さんにマジかよって言いたいのはこっちだ。男らしいんだか、なんなんだか。‥やばい、ドキドキしすぎて心臓口から出る。

「‥あの、烏養さん‥」
「ん?」

顔の距離が近過ぎて恥ずかしいので一旦離れていいですか。そんな私の言葉に、烏養さんの顔がいじめっ子みたいな笑顔になった。この人は本当に、私の心臓を殺す気なのかもしれない。

「そりゃ無理なお願いだろ」

1度触れた唇はお互いかさついていて、私リップ塗ってなかった!と後悔しても時既に遅し。そのまま角度を変えて2度、3度と彼に奪われていく。オフショルダーのせいで一瞬素肌に触れた烏養さんの掌が、酷く熱いような気がしてならなかった。

2017.04.14

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