「なあ繋心、まさかとは思うんだけどよお‥あの子食ってねえよな?」
「おい何個下だと思ってんだ」

飲み会の席についてから暫くわいわいと飲み、肴がないと喚く嶋田の一声で台所で酒の肴の用意をしていると、コソコソと背後から現れたたっつぁんの言葉に口から何かが出そうになった。手なんか出せるか馬鹿野郎。バイトの、しかも4個も下だぞ。中学生と高校生が付き合う状態になるんだぞ。‥とは言え、そういうことにもなり兼ねないというか、つまりは水城さんには結構惚れ込んでいる俺がいるわけだが。それを知ってか知らずか(いや知ってるワケねーけど)、たっつぁんが絡んでくる。もやし炒めさせろ。

「大学生だろ?可愛いな。若い。まさかお前が女連れてくるっていうから何かと思えば‥ハア‥俺は嬉しい‥」
「なんなんだよお前は。さっさと向こう行け」
「もやし炒めるだけだろ?代わってやる代わってやる。愛を深めてこい」
「なんなんださっきからうぜーな!」
「イヤだ野蛮よ繋心ちゃん」

裏声で言うな。しかし有難い言葉だったので迷わず代わってもらって、既に泥酔状態の嶋田に絡まれつつある水城さんの隣へ。つかなんで上着脱いだら肩出しの服なんだよ、目のやり場に困るだろーが。

「なぜ繋心のバイト先に"ック‥ピチピチの若い女子大生が‥いつでも浮気待ってるから俺はァ‥!」
「嶋田さんほんと酔ってますね〜。お水飲みましょう、はい」
「良い子か‥繋心許さん‥」

無駄に扱いに慣れてるのも仕事上歳上が多かったりするからだろうか。真面目で、気さくで、誰とでもすぐに仲良くなれる。最初こそアルバイトで面接に来た時大丈夫かと思ったが、実際は余計な心配だった。しかも、お袋に気に入られて、度々俺の身の回りの世話もするようになってるし。

「別にいいんだぞ、断って」
「断りませんよ。烏養さんといると楽しいですもん。まあ烏養さんが嫌だったら逆に断ってください」
「‥そんなことはねえけど」


あれはさすがにちょっと心臓止まると思った。

「水城さんあんま酒強くねえんだから無理すんなよ、あと無理さすなよ」
「はーい」
「やだー繋心イケメーーン」
「先輩イケメーーン」
「なんなんだよほんとに!!」

町内バレーチームの一員である森も内沢さんも、バカにしたように絡んでくる。しかし、水城さんは結構楽しんでるようで、俺の言葉に答えながらもちまちまと透明な液体を飲み続けているようだった。‥‥何飲んでんだ?

「美味いだろ、オススメのピーチスパークリングワイン!女子にはうってつけ!」
「おいコラ森。水城さん酒にはそんな強くないって言わなかったか?」
「大丈夫です烏養さん、美味しいです」
「いやそうじゃなくてな?」
「先輩保護者かなんかすか?大丈夫っすよ顔も変わってないし」
「15%だぞ15%、何杯飲んだ?」
「もう中身ないので安心してください先輩」
「逆に安心できねえわバカ!ちょっと水飲め」
「むー」

むーじゃねえよ。なんだかより可愛く見えてしまうからやめろ。水の入ったコップを渡して、無理矢理に飲ませることには成功。でもやはり少し酔っているのか、笑い方が少し緩くなっているし、顔こそ赤くなってはいないが目元がやんわりと眠そうだ。

「繋心ってさーあ、中々彼女できないよなあ。ホントそんな髪と顔だから"ック‥」
「あ"!?」
「まあ顔がヤンチャなだけだしな。事実真面目だからだろ」
「わ、それ分かるかもしれないですー!」
「水城さん、昔の繋心の写真とか見たい?」
「えっ見たい!」

俺がいるのに俺の話をするのをやめろ。恥ずかしすぎて手に負えなくなりそうになってくると同時、水城さんが酒を注いだコップを手渡してきた。香るのは酒の匂いと、ふわりとした花の匂い。多分いつもつけてはいないだろう香水だ。少し長めに引かれたアイラインだとか、いつもより少し赤い唇だとか、そんな些細な変化は、急に水城さんを大人の女に近付けている気がして、慌てて酒を口の中に流し入れた。クソ、なんで俺ばっか惚れっぱなしとか。なんか悔しくね?そう思う自分も、割と酒に酔っているのだろうか。

2017.04.01

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