「美味しい!」
「だろ?さすが水城さん分かってんな〜」

ぱくりとブリの照り焼きを口にした瞬間、率直な感想がそのまま声に出た。烏養さんに連れてきてもらった先、というか居酒屋って書いてあったけどこの際どうでも良い。いやどうでもいいというか、とりあえずご飯が物凄く美味しいのだ。しかも家庭料理みたいな温かさがあってそれもまた落ち着く。眠気が一気に吹っ飛んだ。そしてまた1つ意外な烏養さんの姿が見れたのが嬉しくて、無駄に食が進んでしまう。‥ヤバイ太る。

「ここ、俺の行きつけで昔よく来てたんだよ。全然変わんねーなあ」
「ふふ、烏養さん、ご飯粒ついてますよ」
「あ?マジ?やっべ」

照れ臭そうな顔をした彼の顔は、いつもよりもずっと自然に見えた。普段は仕事の顔しか知らないから当たり前のことなんだけど。塩唐揚げ定食にがっついている烏養さんは実に男らしくて、普段大学で仲良くしているような男子とはやはり違う。何がと聞かれても受け答えの言葉に困るところだ。多分私の目には烏養さんだけに超凄いイケメンフィルターがかかっているのかもしれない。

「どっち?」
「左です、左」

自分の口元を指差してご飯粒の付いている箇所を教えるも、何故か顎を触って首を傾げる烏養さん。顎じゃなくて口元だってば。取れる様子のない姿にどうしたものかと笑っていると、彼は急に動きをぴたりと止めて私の目をじっと見つめ始めた。え、なに。なんだ。

「取ってくんね?」

はい?

‥なんて声に出なかっただけまだマシだけど、笑っていた私の口が固まった。今なんて言った?「取ってくんね?」だって?ご飯粒を?イヤイヤ、無理じゃん。だって口元だよ?私が恐れ多くも触れる場所じゃないでしょう?

「‥」
「水城さん」
「いや、‥あの」
「自分じゃ付いてる所分かんねーから」
「絶対嘘つっ‥そんなニヤケても駄目です!」
「ぶはっ‥!わりわり、冗談だっつーの。んで少しは眠気覚めたか?」

‥あ、その顔、好き。

「だ!だから別に眠くなかったですってば!」
「そっちこそ嘘付け。いや、悪かったな朝から付き合わせて。多分徹夜だったんだろ?」
「えっ‥‥‥‥なんで分かったんですか?」
「そりゃあこれでも歳くってるからな」

わはは、なんて笑った烏養さんの姿に言葉が詰まる。歳くってるイコール大人という方程式。2人で来てるのに、私と違って気持ちに余裕があるように見えた。自分だけソワソワしてて恥ずかしいけど、烏養さんに少しはそういうのないのかな。主に私に対して。‥あるワケないか。単品で頼んでいた野菜コロッケに箸を伸ばしながら彼を盗み見ると、最後の味噌汁に口をつけ始めた烏養さんの口元にご飯粒は付いていなかった。‥やっぱりどこに付いてるか分かってたな。くそう。

「そういえばお酒、たくさん買ってましたけど‥なにかあるんですか?」
「ああ、今週末ウチで町内会バレーの奴らと飲み会なんだ。それの買い出しも頼まれて」
「なるほど。飲み会とか1年の時入ってたサークルの歓迎会以来かも。いいですね楽しそう」
「暇なら水城さんも来るか?野郎しかいねえけど、それでもいいなら」
「わ、私ですか?いやでも、‥」

野郎しかいない中に私を放り込む気か。そうは言っても烏養さんのいる飲み会とかレア。行ってみたい。いいのかな行っても。とりあえず今週末のスケジュールを思い出す為に脳内フル回転が始まる。カシャカシャチーン。‥‥レコーディングの立会い日だ。早く終われればいいけど、長引いたら日を跨いでしまう。

「‥間に合わないかもしれないです」
「どーせ朝方まで飲んでるよ。なんなら迎え行くけど。飲んでるし歩きで良ければ」
「!」
「来たくねえ?」
「いっ‥行きたい、‥です」
「‥‥‥お前それ駄目なやつだと思う」
「え?」
「いや、‥じゃあ終わったら連絡な」
「‥はい!」

これは何がなんでもメンバーさん達の尻を叩かねば。手を挙げて返事をすると、また烏養さんは照れ臭そうに笑った。‥可愛い。大人の男の人に可愛いなんて言ったら怒られるだろうか。

「てかサークルとか入ってたんだな」
「はい。作曲サークル」
「それ普段やってることと大して何も変わんねえような気がすんだけど‥」

2017.03.06

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