「応援って何したらいいのかな。叫ぶの?」
「か、観戦だけじゃだめなの‥?」
「いやいや、それじゃあ応援とは」

今日は男子バレーボールのインターハイ予選2日目、当日。初日は来れないと言っていた琴ちゃんを2日目に引っ張り出すことに成功して、私達は会場まで足を運んでいた。人がいっぱいいる、んだなあ‥!って当たり前か。私達と同じく応援に来ているだろう人とか、恐らく試合に出るのであろうおっきい人とか。‥うわっ東峰君より大きい‥怖い‥。

「とにかくほら、早く烏野のとこ行くよ!あわよくば挨拶しに行かなきゃ!」
「イッ!?いいよ、変な緊張感を生む!」
「あんたが勝手に緊張してるだけでしょうが!ほらほら行くよ!」

琴ちゃんに腕を引っ張られて、人の波を掻き分ける。凄いなあ、こんな大きな会場で人に見られながら試合するなんてどれだけ緊張するんだろうか。きょろきょろと周りを見ながら歩いていたが、どうやらもう烏野はコートにいるらしいことが判明。自分で挨拶はいいよ!とか言っておきながら、なんだか少しだけ残念な気持ちになってしまった。‥けれど。

「うわ、すっご‥!」

大きな体育館に入っていくと、色んなチームが既にウォーミングアップだなんだと始めていた。シューズのキュッて鳴る音、アタックを打った時の音、鼓舞する掛け声、空気感。‥私ももう全て知っているものだ。

「あ、見て、あれ」

琴ちゃんが指を差した先には黒とオレンジのユニフォーム。つまり烏野高校のバレー部が、潔子ちゃんや武田先生が見つめる中、コーチのスパイクを1人ずつ受ける皆がいた。真剣だな、緊張とかしないのかな‥むしろ私が緊張しちゃう。凄い。‥って、私凄いとしか言ってない気がする。

「あ、あれだ。あの真ん中の黒髪の子でしょ?1年生ですっごい上手な奴がいるってスガ君言ってたんだけど」
「影山君?うん、確かに凄い上手だけど、まだ何が上手なのかって言われても分かんないんだ‥あのちっちゃいオレンジ色の髪の子いるでしょ?」
「あー、‥ほんとだ、なに、アタックする担当なの?ちっちゃいのに」
「そう。私も驚いたんだけどね、飛ぶんだよほんと。それで、日向君って言うんだけど、影山君を足すと速さ2倍って感じなの!」
「‥ごめん何も伝わんないわ」

ですよね。いやでもこれは、私の説明では無理だと思うって苦笑い。後で2人の攻撃見たら分かるよって強く伝えて、そして次に来るであろうスパイクの音に耳を傾けた。力強いそれは確かに東峰君のそれで、同時ににやけてしまっているだろう頬っぺた。日向君も影山君のコンビも凄いんだけど、私にはやはり東峰君のスパイクが圧倒的に心を打つ。好意というものがあってもなくてもきっと変わらない事実。‥まあ、若干の割り増しはされているだろうけど。

「‥東峰君って試合中は結構カッコイイんだね。意外〜」
「あ!!東峰君は普段もかっこいいよ‥!!」
「普段は怖いって。ズゥン‥って怖い顔で佇んでるイメージある」

い、否めない‥!そんな琴ちゃんの言葉を聞きながらコートに視線を移すと、笛が鳴って全員ウォーミングアップを終了した様子だった。もうすぐ始まるのか‥!

「知里さん!!応援来てくれたんですか!!」
「ひいっ‥!?」

ここ2階席なんですけど!まん丸お目目の西谷君と視線がばっちり合って、静かになりかけのコートに響いた声は全員の耳に届いていたらしい。こぞって振り向いた烏野高校男子バレー部の皆の姿に隣の琴ちゃんは笑っている。

「おお、知里、日島!」
「応援来てくれてたのかー」
「「アザーーッス!!」」

だから、響いてるってば!恥ずかしいから前向いてください!そうしてぱちりと目が合った東峰君はなんだか照れ臭そうに笑っていたものの、いつもよりずっとずっと頼もしく見えた。勝ってほしい。頑張れ!今、そう大声で言えるくらいの勇気があれば伝わるのに。結局私が何を言うこともないまま、整列が終わってしまった。ああ、とうとう試合が始まるのだ。

2017.11.19

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