「あ、飲み物なくなっちゃった」
「持って来ようか?」
「自分で行くから大丈夫!ありがとう」
「じゃあ俺もなくなったし行こうかな」

菅原君と琴ちゃんが意気投合してデュエットするのを眺めながら飲み込んだジュースは底をつき、立ち上がる寸前の東峰君との会話。嬉しい、しかも一緒に来てくれるとかどうしよう。まあジュース追加しに行くだけなんだけど。澤村君と潔子ちゃんは全くリズムに合わせるつもりがないのか、我が道を行くスタイルでタンバリンを振り続けている。そういえば菅原君、さっき凄い熟練したタンバリンの鳴らし方してたなあ‥どうやったらあんなにジャラララ〜って鳴るんだろう。後で聞いてみようっと。

「あ、来海」
「?」
「私も烏龍茶欲しいからお願いしてもいい?」
「うん、分かった」

扉を出ようとした瞬間、潔子ちゃんにこっそりと渡された空のコップ。そうして頷いた後に「頑張ってね」という謎のお声掛け。何を頑張るんだ‥?その疑問は先に扉を手にかけた東峰君の姿を見て晴れた。‥‥どうしようこれ2人きりってこと!?

「知里さん?」
「い、行く、あり、がと」

好きだと自覚してなかった最初の頃とは違う。急にドキドキしてきた心臓と連動するように口の中がカラカラに乾き出した。たった数メートル、たった数メートル。でもその短い距離がなんとなく物足りないような気持ちもある。

「‥顔赤いけど大丈夫?」
「嘘、ほんと、?」
「うん。もしかして今日無理して来た‥?」
「違うの、違うんだけど‥‥ほんと、大丈夫、気にしないで‥」
「‥ならいいんだけど」

東峰君と2人きりっていうシチュエーションに緊張しています、なんて口が裂けても言えない。そんなこと言ったら世界が終わる気がする。‥ああ、今更ながらやっぱりおっきいよなあ。服装だってシンプルだけどオシャレだし、いつもみたいに髪の毛を全部まとめていないのがまた逆に色気というか、なんというか、‥‥本当に同じ歳なのかなと疑ってしまう。対してこの私の色気の無さときたら‥

「‥なんか、急にこんなこと言われたら引くかもしれないんだけど」
「!?色気ないってこと!?」
「え?」
「えっ‥」

追加のジュースを注いでいると、隣で氷を入れていた東峰君がぼそりと喋ったものだから、慌てた拍子に心の声が漏れた。いやいや何言ってんだ私ばかか!!色気はないけど聞くことでもないでしょ!!?言葉が出てこなくて沈黙していると、コップから溢れた烏龍茶が右手を濡らしていた。

「冷たっ!」
「大丈夫!?タオル、タオル!」

ああほんとばか。カッコ悪い。というか最悪。潔子ちゃんのコップ新しいのに替えなくちゃ。意識するとだめだ、全然だめだ。変なこといっぱい考えちゃうし、東峰君のこと、1つ1つの言葉や小さな動きを気にしてしまう。

「はい、タオル!店員さんに借りてきた!」
「ありがと‥」
「ごめんね、俺が突然変なこと言うから‥!」
「や、私がなんかテンパっちゃって‥ごめ、」
「いや俺が‥!」
「ううん、こちらこそ‥!」
「「‥‥‥。ぷ、」」

謝罪の仕合いになってしまって、ぱちりと視線が交わった瞬間につい笑いが出たのは同時だった。お腹を抱えるまでではないけれど、なんだか色々可笑しくなってきて緩んだ頬は締まらない。そうやって笑っていると、先に落ち着いたらしい東峰君が私の濡れた手にそっとタオルを当てた。優しいなあ‥‥そう感じながらそっと見上げると、突然顔を硬くさせた東峰君が私を見下ろしていた。

「‥さっきの」
「あの、自分で拭くから‥」
「知里さん、なんかいつもと少し雰囲気違うから‥ちょっと緊張した」
「ぁ、‥え‥?」
「‥‥‥今度、2人でどこか行きませんか」

2017.05.26

prev | list | next