多分。なんとなく。最近知里が旭のことを好きになっているんじゃないだろうかってことには気付いていた。音駒との練習試合の時、ふと彼女が見ていた視線の先が旭だったことや、その他諸々の行動の中心が旭だったこと。別に旭が駄目だと言いたいわけじゃない。なんで旭だったんだろうと。あの気の弱いけど、優しい旭だったんだろうかと。そうして今日、知里は緩くながら化粧を施していて、まさに恋する乙女状態だったのだ。俺の為にじゃない、まず旭の為だ。

「東峰君ってカラオケとか来るんだ」
「うん、偶に大地達と来るよ。中々休みないし、早々は遊びになんて来れないけど」
「大会近いもんね」

ほら、そうやって今も旭の隣で物凄く可愛く笑うし、旭も満更じゃない。なんとなく面白くなくて頼んでいたジンジャーエールを口に押し込むと、ぴりぴりと喉が痛んで涙が出そうになった。いや、いっそのこと流した方が楽かもしれないくらいには傷付いているのかもしれない。まさに恋の病。‥自分で言っててキツイ。今日だって、わざわざ知里の家の方面からバスに乗り込んだのだ。何が悪い。何も悪くないだろ。

「ちょっとスガ君」
「日島?‥どしたの、そんな怖い顔して」
「それはこっちの台詞だよ。顔が超!暗い!いつもの超寒いギャグ飛ばして爽やかに笑うスガ君は何処へ行ったのかな?」
「酷えな!そんなに寒くねえべ!」
「いーや、寒いよ!超!」

ちょい、こいつ今2回も超寒いって言ったぞ。日島って実は酷いよな。そう言っていると、隣に座ってわしりと髪の毛を撫で回される。‥もしかして、日島は何かを知っていて励ましてくれているのだろうか。知里の友達なんだ、多分相談とかしているんだろう。‥‥いや聞くに聞けない。

「今のスガ君超寒いし超カッコ悪い」
「日島さん俺の精神今そんなに強くないんですから優しくお願いしますよ」
「えー」
「‥俺そんなに暗い?」
「見て。あの熟年夫婦みたいな大地君とキヨちゃんの視線を。多分ここでスガ君の気持ちバレてないの東峰君と来海くらいだよ」

‥は?

「‥‥ちょっと待った、どういうこと‥」
「私はとっくに気付いてたけど?」

‥嘘だろ?それ怖い!そう思って清水の方へ目を向ければ、なんとも言えない表情を浮かべている。‥恋の病怖いわ‥。なのに肝心の人物に想いは届いていないのだから嫌になる。なんでこんなに難しいんだろうか。バレーボールの方がよっぽど簡単だ。いや、言い方が物凄く軽いかもしれないけれど、頑張ったら頑張っただけ努力は応えてくれるから。でも恋愛は違う。頑張ったら頑張っただけ空回りしていると言っても過言ではない。

「‥日島はさ」
「ん、」
「好きな人に好きな人いたらどうする?」
「聞かれても困る。だって頑張るしかなくない?私も現在進行系で必死に振り向かせようとしてるよ。でも全然気付かない」
「えっ‥日島も好きな人とかいるの‥?」
「なによ、いちゃ悪い?もう2年も好きだわ」

いやそういう意味じゃなくて。しかも2年もとか‥でも、なんだかんだ彼氏とかいなかったっけか?まあ、乙女心はなんとやらっていうのはよく聞くからな‥ぼんやりして溜息のような声を出していると、ぎゅうっと頬っぺたを抓られる感覚がした。

「いって!」
「だから、スガ君に簡単に諦められると困るの。踏ん切りはつけてよね。そんでスッキリしてほしい。つまり頑張れってこと」
「?だからっていう意味がよくわかんねー」
「‥‥。あ!大地君!スガ君が女々しくて歌うって〜!!はいマイクどうぞ」
「いや次日島じゃん!」
「は〜い選曲もピッタリでしょ?なんなら一緒に歌ってあげましょうか?」

うふふ、なんて悪魔みたいに笑う日島にぴきりとして、ゆっくり腕を掴み上げるともう1個のマイクを手渡した。女々しくて、なんて言うなら付き合ってもらおうか。女々しい者同士!!

「折角だし、楽しまないとさ。今年最後の高校生だよ、スガ君」

少しだけだ。日島が笑った顔に救われた気がした。知里は依然ずっと旭の隣に座っているけど、隣で馬鹿みたいに笑いながら歌う日島に、心底有難いと思った。

2017.05.13

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