「え?明日休み?珍しいね、大会近いのに」
「体育館の定期点検なんだと。だから屋内の部活はどこも休み」

とあるお昼休み。琴ちゃんとご飯を食べていると、珍しく教室でご飯を食べる用意をしていた菅原君と澤村君が私達の輪の中に入ってきた。うわあ、お弁当美味しそう。がっつり男弁当って感じの、唐揚げ、ポテトサラダ、春巻き、卵焼き。他色々。あ、卵焼きは違うかな。ダイエットなんて続きそうではない私のお弁当の中身は酷くカロリー不足に見える。‥というかさすがにきんぴらごぼうとたくあんとトマトのみはやり過ぎだ。お母さんに言おう。

そして先程、珍しく部活が休みであることを澤村君の口から聞いた。ちょっと嬉しそうだけどちょっと複雑そうで、多分練習したいんだろうなあと思った。大きな唐揚げを頬張ると、むぐむぐと口を動かしながら溜息を吐いている。どんだけ好きなんだバレーボール。でも、最近その気持ちがよく分かるよ澤村君。と、じゅううと紙パックのオレンジジュースを啜っているところで、菅原君がちょいちょいと私の肩をつついてきた。

「?なに?」
「知里って明日暇?」
「明日?特に予定ないから暇だよ。なんで?」
「たまには高校生らしく、パーッとカラオケでも行きたいよなって話ししててさ。大地と旭と、日島もどう?」
「はい出ました。スガ君の"お前もついでに"はつげーん。乙女心に刺さるー」
「そんなこと酷いこと言ってないだろー?元々日島も誘うつもりだったんだぞ?なあ大地」
「‥まあ、というわけだ2人共。人数合わないのが嫌なら清水も誘うから」
「いやいや、キヨちゃん来るんだったら私と来海も参加表明でしょ!」

あれ、なんか勝手に話し進んでるけど。お弁当に残ったきんぴらごぼうを噛み締めながら、右から左に流れた会話の内容を思い出していると、メンバーの中にとある人物が入っていたことに気付く。大地と旭と、日島。‥旭、あさひ。その名前の人を私は1人しか知らない。その瞬間、ごくごくと飲んでいた紙パックを無意識に握り締めていたらしい、中身が飛び出て器官に直撃した。

「ぬっ、ぐ!!?げほ、げほっ!!」
「ちょっ何やってんの来海!水!はい水!」
「ご、ごめん‥!」

背中をさする琴ちゃんの手が強過ぎて痛いが、今はそんなこと気にしてはいられない。東峰君も遊びに来るという滅多にない休日が訪れるとは。行きたい、カラオケとか苦手だけど凄く行きたい。正直潔子ちゃんと琴ちゃんが行かなかったとしても行きたい!

「でもそれ、私も行っていいの‥?」
「お!知里結構乗り気!」
「スガが言い出した事だから気にしなさんな」

可笑しそうに笑った澤村君はそう言うと、なあ、と菅原君に視線を送るが、何が気不味かったのか彼は少しだけ眉間に皺を寄せた後に溜息を零しながら、掌で顔を隠している。

「あー‥‥大地サイテー」
「俺は本当のことを言ったまでだがなあ‥」
「‥唐揚げ1個もらいっ!!」
「がっ!?最後の唐揚げを!!」

唐揚げ1個の為に争いを起こしている2人を、苦笑いしながら眺める。平和すぎるこの光景を見て琴ちゃんも溜息を零しているが、どこか上の空のようだ。彼女がこんな顔をするなんて珍しくて、お弁当箱を片付けながら首を傾げた。

「どうかした?」
「んー上手くいかないもんだと思って‥」
「あの、私でよければ悩みなら聞くけど‥」
「これは私の問題だからいいの。来海は気にしないでくださーい」

琴ちゃんの横顔がなんだかいつもより数倍綺麗に見える。私には言えないことなんだ。‥‥少し寂しいと思うのは、私の我儘だろうか。

2017.04.25

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