「『これが最後の一球!』常にそう思って喰らいつけ!!」

コーチの叫ぶ声と、ボールの音。ついこの間まで何度も聞いていた音なのに、なんだかとても懐かしい感じがする。

東峰君に連れられて顔を出した体育館には、満面の笑みの皆がいて、潔子ちゃんがいた。やっぱりこの空間にいるのが好きだな。それぞれ皆が話しかけてくれて嬉しかったけど、特に菅原君の様子が前と違ったような気がした。なんて言ったらいいか分かんないけど、何かに吹っ切れたようなそんな感じ。東峰君の言う通りだった‥変に謝ったりしなくてよかった。

「ナイスだ日向!」
「カバー!前、前!」
「旭頼む!!」

素人目には分からないけど、前よりも皆の気持ちの入り方というか、‥うーん、なんていうか、‥そう、違う。気合い入ってるんだなあと、東峰君のスパイクを眺めながら思う。

6月2日にインターハイの予選があるってさっき武田先生が言ってた。まずそれに向けて全員が頑張っているのだ。凄いなあ‥。行きたいんだけど‥ほんと、琴ちゃん一緒に来てくれないかな。1人で行くのは流石に恥ずかしいというか。‥そうだ!またお手伝いきてほしいとかない‥かな。ないか。別に合宿とかじゃないし、ご飯作る必要もないもんな。うーん‥後で琴ちゃんにメールしてみよう。駄目元、駄目元だ。

「来海、ごめんね。あんまり話せなくて」
「え?部活中なんだもん、しょうがないよ。あれ、もう練習終わり?」
「ううん、次ゲームするからその準備中。あ、得点板一緒にやる?」
「いいの?やる!」
「ほんと?ありがと」

実は合宿で少しだけ得点板をやっていたから、嬉しくて跳ね上がった。それを見て潔子ちゃんが笑う。こんなにバレー部に関わることが嬉しいだなんて、やっぱりマネージャーしたかったかもなあ‥とは、間違っても言わないけど。

「ノヤッさん、今日も負けられませんよ‥」
「ああ‥!!分かっている!!!」
「‥おいスガ、ボール貸せ。ぶん投げる」
「まーまーまー。ほらー西谷も田中もいい子だから集合しろよー。大地さんおこだぞー」
「「ハイッ!!かしこまりました!!」」

潔子ちゃんと得点板を移動させていると、いつもの仲良しコンビが犬みたいにスガ君に引っ張られているのを視界に入れた。お母さんみたいだなあ。さて今日はどんなゲームが見られるのだろうか。

わくわくしてきた!

「運ぶの手伝ってくれてありがと。知里さん、ビブスを東峰のチームに渡してきてもらっていい?私澤村のチームに渡してくるから」
「うん!‥って、あ」

にっ。悪戯っぽく笑った潔子ちゃんにどきり。そういえば、潔子ちゃんにバレてたんだっけ‥。いやでも、もうそんなにドキドキすることもない!ちょっとは仲良くなれたし、さっきも相談乗ってもらったし!大丈夫、大丈夫!!そうして駆け出して、チームの中心に急いだ。

「東峰君、ビブス‥」
「‥‥そう、だから今日はできればいつもより少しゆっくりで上げてもらいたいんだ」
「ウス」

東峰君の横顔に思わず見惚れてしまう。凄い真剣な顔、こんな間近で見るの初めてだ。やっぱり、男の人なんだなあと今更な意識。

「や、山口君これ‥」
「あ。すみません、ありがとうございます」

なんだか真面目な話しをしている中でビブスを渡すことができなくて、近くで冷静に話しを聞いていた山口君にそっと手渡した。

2017.04.16

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