「で、どうだったんですか合宿は」
「すっごい楽しかった!」

男子バレー部の合宿が終わると同時にGWも終わり、休み明け初日の教室で琴ちゃんに捕まった。あっという間に過ぎてしまって寂しかったが、彼等にはこれからが本番なのだ。公式試合は絶対に見に行こうと思っているけど、1人で見に行く勇気がまだないから彼女を誘おうかと思っている。‥まあ、予定だが。多分、運動神経も良い琴ちゃんだったらもっとハマるんじゃないかな。‥うう、でも東峰君にはハマってほしくない。でもかっこいいというのは分かってほしい。なんという矛盾なのだろうか。

「そうかー、ならよかったね。‥とでも言うと思いましたか?!!」
「ひっ!?」
「どうだったんですか合宿はって、もちろん東峰君とのことに決まってるでしょうが!察しなさいよ、このおばっむご、」
「ぎゃあ!!琴ちゃん声大きいやめて!!」

何を大声で口走っているんだちょっと!慌てて両手で琴ちゃんの口を止めに行くと、周りを見渡した。どうやら声に反応したクラスメイトはいない。基本明るい系女子の彼女だから、割と声が大きくなっても「いつものことか」って思われるんだろう。助かった。

「じ、‥自覚はしたから‥!」
「ファ!!」
「‥東峰君のこと」
「ファ〜〜‥!!ヒョ、へはなひて」
「あ、ごめん」

私の発言に目を丸くした琴ちゃんが、ぱしぱしと口元の手を叩く。大きな声出さないでねと一言、ゆっくりと手を離してみた。それはそれはもう嬉しそうににんまりと笑って肩を抱き寄せられて、よろけた拍子に彼女の足を踏んでしまったが‥興奮しているのか意に介していない。

「や、でもそれだけじゃなくて、練習試合も面白かったし‥それに、東峰君だけが凄かったわけじゃないんだよ?他の人も凄くって、澤村君も菅原君もいつもクラスにいるのとは違っててキラキラしてたし、1年生にも小さいのに東峰君ぐらい飛ぶ男の子がいるの」
「え、もしかしてスガ君練習試合出てた?!」

力強く机に両手を付いた所で、流石に教室中から注目を浴びたのが分かった。‥って、なんでそこでそんなに食い付いたんだろうか。そういえば‥菅原君、練習試合出てなかったっけ。試合出るとか出ないとかあんまり気にはしてはいなかったけど、もしかして菅原君はレギュラーじゃないのかな‥?

‥‥え、嘘、私それって超無神経だったんじゃない‥?だから私に振り向いた時、変な顔をしてたんじゃ‥

「スガ君、スタメンじゃないって言ってたから、‥もしかしてレギュラー奪還‥?!」
「‥私無神経すぎる」
「は?何急に」

よく考えたら3年生って最後の年なのに、試合に出れないって凄く悔しいことじゃないか。それはさすがに考えれば分かることだったのに、私は菅原君のことも応援しないで東峰君ばかりに夢中になって。

「菅原君、ずっとベンチにいた‥全然気にしてなかった。コートの中しか見てなかった‥」
「あ‥いやそれはまあしょうがないよ、東峰君に目がいってたのはしょうがないでしょ。そっかあ‥ってことはスガ君はやっぱりスタメンじゃないのか‥」
「知里おはざんすー、お、日島もいる!」
「そりゃいるでしょ!スガ君酷い、来海しか興味ないじゃん!」
「まあーな!」

朝練が終わったのか、前と変わらず‥いや前よりもずっと爽やかに見える菅原君が教室に入ってきて、教室が一気に明るくなった。もちろん澤村君も一緒で、有意義な練習ができたのか薄ら汗を滲ませている。東峰君は‥違うクラスだからいる訳ないか。

「知里?」
「うえ?はいっ!」
「‥なんかあった?」

そっと屈んだ菅原君は、私の顔を覗き込んで眉間に皺を寄せていた。なんかあったと言われましても‥菅原君に申し訳なささを感じておりました、とは言い辛い。返答をするべきか迷ってオロオロしていると、そのまま頭に手を置いてぐしゃぐしゃに掻き回す。待って一応女子の髪の毛。

「言いたくなかったらいいけど、そんな顔されると心配になるんだからな?」

なんか察してくれたらしい菅原君が困ったようにニッと笑う。この男の懐の広さ?深さ?ううん、語彙力がなくて表現が乏しいところだけど、やっぱ菅原君はモテるんだろうなあとぼんやり考えながら、始業開始のチャイムを右から左に聞き流していた。

2017.03.21

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