スポーツは苦手。でも今、烏野と音駒の練習試合を見て、なんだか体を動かしたいと思うのは変なことだろうか。皆がすごく楽しそうだからそう思ってしまう。

「ブロックをサイドに寄せたな」
「うん‥」
「デディケートシフト‥?」
「‥嶋田さんそれなんの呪文ですか‥?」
「呪文て!」
「呪文じゃなくて、そういう配置。ほら、相手ブロック3人が左に偏ってるだろ?」
「あ、ほんとだ」

嶋田さんと滝ノ上さんにルールを今一度教えてもらいながら、練習試合を観戦する。学校の授業と全然違う。当たり前のことなのかもしれないけど、私はそういうことだって全く知らなかったから。それに、難しい言葉もいっぱいある。コートの中では皆が色んなことを考えているんだろう。

「影山君がアタック打った!?セッターは打っても大丈夫なんですか?」
「問題ないよ。基本セッターもオールラウンダーなポジションだからな」

どうしよう、ここにいる皆がハマる気持ちが分かる。バレーボール、私もハマったかも。

「ナイスキー旭!!」

また東峰君が決めて、思わず拍手した。相手のブロックをものともしない強烈なアタックは、いつも私の心に大きく響く。そうして自覚していくのだ。強面で、その姿がどうしようもなくかっこよくて、でも気弱で、そして物凄く優しい東峰君が私は好きなんだと。












「どうだった?練習試合」
「すっごい!!なんかもうね、凄かった!!」
「ふふ」

通常終わる予定だった時間を大幅に超えて練習試合は終わり、ボトルを洗いに行った潔子ちゃんの後ろ姿を見ると急いで1階へ降りた。興奮冷めやらぬなんとやらとは、まさに今の私を表す言葉である。表現力が乏しい私の感想に、潔子ちゃんが楽しそうに笑っていた。

「来海、楽しそうだったもんね。よかった」
「やっぱり試合になると皆雰囲気違うんだって思った!急にかっこいいよね!」
「それ分かる」
「日向君とか吃驚するほどカッコよかった!」
「東峰もカッコよかった?」
「っえ」
「来海、ずっと東峰のこと見てたでしょ」
「え!!!!!!?」

バレてた!!!見てたの見た!!?恥ずかしすぎて固まること数秒、大丈夫、私くらいしか気付かないからと微笑む潔子ちゃんはやはり女神だ。そりゃ私も霞むはずである。潔子ちゃんにバレてしまったと、真っ赤になったであろう顔を両手で隠して背中を向けた。ああ‥穴があったら入りたい。

「東峰はいい奴だよ」
「それはもちろん知ってるよ‥‥だから、というかそれも含め‥」
「うん。だから、頑張れ来海」

ジャバジャバと水の音が止まったと思ったら、いつの間にか私の目の前に回り込んでいたらしい潔子ちゃんが、濡れたままの両手で私の頬っぺたを挟み込んだ。ヒイ冷たい!!そう奇声を上げた瞬間、おかしそうに笑った女神様。‥なんだか急にイジワルだ。

「そんな赤い顔してたら皆にバレちゃうよ」
「ヒヤッ‥すみません!!」

ぱちりと視線が合うと、どちらともなく笑いが溢れた。もう、早く鎮まれ、熱。

2017.03.09

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