「あれ、来海ちゃん!?」
「嶋田さん!な、なんでここに!」
「俺烏野バレー部のOBだからな。久々の"ゴミ捨て場の決戦"だし観戦に来ちゃったんだよー!で、来海ちゃんはどうしたの、もしかしてバレー部のマネージャーだった?」
「給食のおばちゃんです!」
「なんだそりゃ」

2階まで上がると、お母さんとよく買い物に行くお店で働いている、仲の良い嶋田さんという男の人がいた。おお、烏野バレー部だったのか‥世間とは狭い‥!よくよく見ると、ギャラリーが多いことに気付く。嶋田さんの横にも見知らぬ人がいる。知らないおじさんもいる。皆さんもしかして、嶋田さんと同じようにOBなんだろうか。いやしかし、"ゴミ捨て場の決戦"とは一体‥

「なんだよ嶋田、犯罪臭すんぞ」
「ちげーよバカ!店のお客さんだよ!あ、来海ちゃんこいつ滝ノ上っつーの、俺と同じOB」
「チワッス!!」
「シッ‥シャッス‥!」

ピーーーーー

運動部の人って皆こんなノリなのかな。ニカって笑った滝ノ上さんに、自分の笑顔が引き攣った気がした。同時に、体育館に響き渡る試合開始のホイッスル。東京の‥音駒で今からサーブ打つ人すごいプリンだな。目立つ‥。嶋田さんと滝ノ上さんは既にコートに視線を奪われていて、私も慌てて視線を戻す。ルールを少しだけ潔子ちゃんに教えてもらったからか、理解している分面白く感じられるのが不思議だ。音駒の人がサーブしたボールは東峰君が綺麗に上げたと思ったけど、西谷君が文句を言っているようだった。

上がったボールに吸い寄せられるように、影山君が走っている。あ、アイコンタクトしたから日向君打つのかな。そう、ぼんやり考えていた一瞬だった。

「えっ!?」

一瞬で決まったアタック。いやその前にちょっとまって。日向君物凄い飛んだ!!今まではその、練習してる時東峰君しか見てなかったっていうのは否めない。だって彼のアタックは凄いのだ。心臓鷲掴みにされたみたいでドキドキする。でもちゃんとチームを見てみれば、東峰君以外も凄い。凄いっていうか‥‥日向君のあれはなんかもうちょっとよく分からない。よく分からないけど凄いってやつだ。

「トンデモ兵器‥」
「来海ちゃん、アレ見るの初めて?」
「は、はい‥なんですかあれ‥」
「「"変人速攻!!"」」

凄くいい笑顔でかつ、ドヤ顔で言われた。日本語の意味が理解できないからとりあえず首を傾げたが、その後のアタックの音で我に返る。決めたのは東峰君だ。しまった見逃した!

「ハハハ‥スゲーな‥今のは拾えなくてもしょうがねえ‥」

聞こえてきた音駒高校の監督の笑い声に、堪らず頬が緩む。そう、そうでしょう!東峰君のアタック凄いんだよ!!そう大声で叫びたいが、残念ながらそんな勇気はないし恥ずかしい。でも、あの強力で力強いスパイクを打つ強面の東峰君が、実はとっても優しいってことも音駒の人達は知らないんだろうなあ。つまり、全部含めてカッコいいんだよ。

「‥あ」

影山君と何か喋っていた東峰君が、ふと後ろを振り向いて2階席を見た。何か探しているのかと思ったらばっちりと目が合って、びしりと体が硬直する。どうしたというのか。困惑していると、当の本人は顎を人差し指で掻いたと思ったら、ふわりと照れながら笑ったのだ。

「‥っ‥」

一瞬のことだったから周りも全然気付いていないようで、何事もなかったかのように試合は続行している。心臓が煩い。お願いだから黙っててほしい。集中して見れないじゃん。ドキドキを抑えようとコートから視線を反らすと、今度は菅原君と目が合った。眉を下げて、なんとも言えない顔が瞳に映る。‥しまった。さっきの、見られてたかなあ。恥ずかしくって顔を両手で隠していると、菅原君の大きな声援が体育館に響き渡った。

2017.03.02

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