「うわああっ‥」

今日が、東京の音駒高校とやらの練習試合当日である。初めての部活動生用スクールバス、隣は清水‥いや、潔子ちゃん(って昨日名前で呼ぶように言われた)で、前に澤村君と菅原君、そして私達の列の横は東峰君と西谷君である。‥‥西谷君いいなあ。まあそんな訳で、私はだいぶ浮かれているのだ。烏野総合運動公園の球技場なんて、滅多なことがない限りは来ない場所だし、なんだか修学旅行にでも来てるみたいでドキドキする。

「来海、楽しそう」
「なんか、チームの一員みたいで!私運動音痴だし、こういう熱い部活も入ったことないし、運動できなくても入るべきだったかなあ、なんというかこう、わくわくするね!」
「知里は本当に可愛いやつだな〜!なんか生き生きしてんべ〜?」
「そういう菅原君は考え事?なんだかさっき難しい顔してたけど」
「やだ、俺のことよく見てるのね!」
「スガ、突然のオネエ」
「酷いな大地」

緩く笑った菅原君に、なんだか少しだけほっとした。なにかあったのかと思ったけど、違ったかな。後ろで聞こえてくる騒がしい声に、澤村君がちらちらと視線を向ける。騒がしい要因はどうやら日向君と影山君だ。ねえなんであの2人隣同士に座ったの。誰か教えて。

「音駒かあ、私昨日、ネットで少し調べたんだ。赤のユニフォームだった」
「そうなんだ。勉強熱心だね来海」
「あの、‥潔子ちゃんに名前で呼ばれるとなんかとっても照れるね‥」
「そんな、慣れてよ」
「分かります!!俺も潔子さんに"夕君"なんて呼ばれたら、もう‥!!」
「呼びません」
「やめるんだノヤっさん!!そのレベルにまだ俺達は達していない‥!!死んでしまう!!」
「構わない!!!」

うわあ‥潔子ちゃんの目が冷たい‥。

「ノヤっさんアンタってやつは‥!!男前を通り越して男の中の男だ‥!!!!」
「お前等はボリュームを下げるっていう癖を身につけろ!!煩い!!!」
「つーか男前を通り越して男の中の男って、何がどう違うんだよ‥」

的確な縁下君のツッコミが僅かに聞こえてきて、思わず噴き出した。やっぱり面白いなあ、烏野男子バレー部。笑っていると、見えてきた建物に日向君の歓声が聞こえた。どうやら着いたようだ、本日の目的の場所に。バスを降りて荷物の忘れ物を確認して、歩いて場所を移動をしていると、目の前に見えた赤いジャージが。

「集合!!!」

澤村君の声で、皆の空気がガラリと変わる。バタバタと集まりだす中、私は潔子ちゃんと救急箱やボトルの荷物を運んだ。あれが、東京の音駒高校。音駒‥東京‥東京タワーのある‥日本の中心にある高校なのか‥。だからモヒカンもいるのか‥。いや、モヒカンは関係ないかもしれないけど。

「「お願いしアス!!」」
「「しアース!!!」」

ばっ!!と頭を下げた両校に、何故か拍手をしたくなった。あの人達と試合するんだなあと思うと、勝手に肩の力が入る。向こうはマネージャーさん‥‥いないのか。そういえば潔子ちゃんは、他校のマネージャーさん達と仲が良かったりするのだろうか。

「潔子ちゃん、もう半分持つよ」
「ありがとう。助かる」
「!?はぅあっ」
「!?」

潔子ちゃんからボトルを預かっていると、先程のモヒカンが見えた。音駒の人だ!!近くで見ると怖い!!

「女っ‥‥マネッ‥美っうぉあぅっファァァ」

どうしたモヒカン君。その視線の先は、潔子ちゃん。成る程。奇声を発すると、慌ててその場から去って行った。どうやら私は女神の隣では霞んでしまうらしい。恐ろしや潔子ちゃんである。私も潔子ちゃんみたいになれたら、その、‥東峰君も‥

「知里さん」
「うっぎゃああ!!」
「!?な、なに!?どうしたの!?」
「ひ、ああ東峰君!?おど、驚いた!!」
「いや、俺も驚いた‥!ボトル持つよ。清水のも貸して、持って行く」
「旭さん!俺が!」
「いや俺が持っていきますから!!クソ日向離せこのボゲ!!」

心臓出るかと思った!!!突然賑やかになり出した中心から、私はこっそりと抜け出した。そして私の手の中にあったボトルも、いつの間にかなくなっていたのだった。

2017.02.24

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