「どうしたの西谷君、田中君、ユニフォーム」
「俺達の戦闘服です!!!」
「どうスか!?かっこいいスか!?」
「素敵だねー。誰かと思っちゃった」
「!!!アザ、アザッ‥‥」
「死ぬなあああああノヤッさああんんん俺も死ぬうううううっウッウッ‥」
「お前等なんでユニフォーム着てるんだよ」

その日の夜である。帰ろうかと清水さんを待っていた所に、突然現れたオレンジと黒のユニフォーム。オレンジが西谷君で、黒が田中君だ。試合で着るユニフォームの姿なんて早々お目にかかれないし、もちろん西谷君と田中君に言った言葉だって本当だったけど、死ぬ程嬉しいなんて思わないじゃないか。2人揃って胸を抑えている。この濃い合宿期間で多少慣れてしまったが、相変わらずリアクションが大袈裟だ。面白いけど。あれ?でもユニフォームって普通同じ色着るものじゃなかったっけ。まあいいや。

「すみません知里さん‥今から帰宅ですか?」
「うん。プリン食べてたら遅くなっちゃった。縁下君はまた2人の回収係?」
「そんな感じです」

2年生の縁下君は苦笑いでそう言いながら、床で這いつくばっている二人の足をずるずる引っ張っている。なんとまあ、容赦が無い。

「今日もありがとうございました」
「イエ!そんなこと!律儀だなあもう」
「お待たせ、知里さん。縁下、ごめんね、ありがとう。その2人任せた」
「はい」

奥から一足遅く現れた清水さんの姿に、足を引っ張られている2人の顔が輝いたが、ユニフォーム姿なんて腐る程に見てきたのだろう清水さんはその横を静かに通り、私の腕を引いて合宿所の扉を閉めた。まさに流れるような動作である。小さく聞こえた「‥ガン無視興奮するッス」は聞こえなかったフリをしておこう。

「今日もお疲れ様でした」
「清水さんも、お疲れ様です!」
「助かったよ。食事の準備、武田先生が手伝ってくれるとは言ってたけど、顧問の先生にそんなことさせる訳にはいかなかったから1人でするつもりだったし」
「あはは、武田先生ならしそうだねー」
「今日の献立のハンバーグが凄く大好評で、皆満足そうだったよ」
「最後、ご飯なくなっちゃったからなあ‥男子高校生の胃袋なめてたよ〜。凄い食べるんだもん、特に影山君と日向君」
「あれは異常。大食い競争じゃないんだから」

呆れるように笑った清水さんは、とても楽しそうだ。私は明日でお手伝いをするのが終わりになる。少し、寂しい。いや少しどころじゃない、だいぶ寂しい。また学校始まっちゃうし。

「寂しいなあ」
「また手伝いに来てくれると嬉しい」
「え?」
「3年生だし、確かにマネージャーになるには遅すぎるけど。でも、合宿は今回で最後じゃないし、手伝ってくれるのは皆歓迎。知里さんたくさん動いてくれて私も助かったから」
「‥ホント?」
「うん。ねえ、‥‥来海って呼んでもいい?」

どさっ。体育のジャージが入ったカバンが落ちた。清水さんの破壊力、凄い。田中君と西谷君の気持ちが今全力で理解出来た。あ、日本語変かも。でもそれくらいなんか、嬉しい。照れてる、いつも田中君達を遇らい、表情筋をあまり緩めることすらない清水さんがデレてる!!

「あ、うっふ、うん、いいよ‥!?」

高校3年生にして、頭の中で「友達100人できるかな」という、小学生の時に習った歌が流れていた。学校始まったら、真っ先に琴ちゃんへお礼言いにいかなきゃ。

「知里さん!」
「ふげっ」

突然のことに驚いて変な声が出る。随分な大声で私を呼んだのは誰だろうか。振り向くと、真っ黒のジャージを着た東峰君が追っかけて来ているではないか。なんで!!?どうして!!首を傾げて清水さんへ視線を向けると、とりあえずと背中を押された。

「わ、っと、ええ‥あの、どうしたの‥?」
「これ、知里さんの髪留め?台所にあって‥」

真っ赤なお花のブローチがついた髪留め。確かに私のだ。料理する時だけ前髪が邪魔だから付けているものだけど、‥明日も来るつもりだからと置かせていただいてもらっていたのだが。わざわざ走って届けに来てくれるとは、まさか「置いていた」とは言えない。

「あ、ありがとう‥ごめんね」
「いや‥‥その、‥挨拶できてなかったから」
「?」
「あの‥‥‥また、明日」

えっ。もしかして、もしかしてそれだけを言う為に?受け取った髪留めを思わず握りしめた。そっと見上げると、照れているような東峰君が笑っている。やっぱり、その優しい顔が好きだなあ。

‥‥‥‥‥‥ん?好き?

「東峰終わった?」
「あ、おう、清水、ごめんな引き留めて」
「東峰だから別に良い。行こ、来海‥来海?」

なにそれ、私いつから東峰君のこと好きになっちゃってたっていうの?!ぐるぐると回りだした頭の中で、天使の羽根を生やした琴ちゃんが、小悪魔みたいにケタケタと笑いながら飛び回っていた。

2017.02.22

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