「あの、お疲れ様です!朝ご飯もうすぐできますが、どうしてもお腹減ってる方いましたらどうぞ塩むすびを召し上がっ「アザーーーッス!!」うぎゃ!?」

まだ喋っているというのに飛びかかってくるような2匹と、目をキラキラ輝かせてそっと近付いてくる1匹に悲鳴を上げてしまった。飛びかかってきたのは、1年生の日向君、2年生の西谷君。そっと近付いてきたのが1年生の影山君だ。高校2年の修学旅行の時の、某鹿のいる観光地で鹿煎餅を買って後悔した気持ちが蘇る。恐ろしい。

「知里先輩はマネージャーになるんですか?」

先輩という言葉はなんと気分のいいことか‥!

「‥って、ならないよ!私3年生だからすぐ卒業しちゃうし‥」
「マネージャーが2人いると、強豪!って感じなのになー。なあ影山ー」
「知里さんは3年生なんだからしょうがねえだろ。我儘言うな」

私の握った塩むすびをガブリと食べながら日向君は影山君に噛み付いている。そうそう、東峰君に送ってもらった日、とても仲の悪そうに見えたオレンジ髪と黒髪はこの二人だった。今この光景を見ると仲が悪いのか良いのか‥良いのか‥?昨日も物凄い勢いでカレーどっちが多く食べれる競争して、澤村君に怒られてたし‥‥うーん、男の子はよく分からないな。

「知里さんは」
「へ?」
「潔子さんと大変仲が良いのが羨ましいです」
「あ、ありがとう‥?」
「おにぎりも美味しいしな‥知里さんにも潔子さんと同じような美しい清浄な気が流れているんだ‥そうだろ‥ノヤっさん‥」
「たっ‥田中君‥」
「「神よありがとう‥」」
「知里さん放っておいていいよ。私ご飯よそうから、知里さんはお味噌汁お願い」
「う、うん!」

最終的に清水さんに向けて拝むような仕草をする2人に苦笑いをしていると、それを視界にも入れていない清水さんが私を呼んだ。最後の炊飯器のお米、炊けたのかな。早く行かねば!そう思ってトレイを近くの日向君に託していると、目の前から東峰君の姿が見えた。思わず塩むすびを1つ掴む。しょうがないのだ、東峰君がお腹が減っている顔をしているから。

「俺も1つ貰っていいかな」
「それはもちろんです、はい!」
「ありがとう。知里さん朝から元気だね」

まあ朝から働きましたから脳の活性化半端ないですよ。‥と心の中でVサイン。何故私はこんなに朝から気合いが入っているのか。コーチに練習見てもいいって言われたからかな。

「今日も頑張ってね!私も頑張る!」
「わ、分かった!」
「朝ご飯は魚!」
「焼き魚?」
「そう、あとお味噌汁とサラダと、ちょっとした煮物と、あとお漬物も種類があって‥」
「和食だね」
「メニューがそうだったの。コーチと武田先生と清水さんで考案したって」
「確かに、和食は体に良いって言うなあ」
「和食嫌い?」
「そんなことない、好きだよ」
「すっ‥」
「知里さ‥‥成る程、東峰」

またまたひょっこりと現れた清水さんに、私は思わず口を噤む。お味噌汁!!任されたんだった!!慌てて清水さんの横をすり抜けて、食堂へと向かった。全然なんの関係もない、東峰君の"好きだよ"という言葉が頭の中で木霊している。だめだ!私はこれからお味噌汁をお椀に注ぐのだ!!猛ダッシュで駆け込むと、半目のコーチが欠伸をしながら既に食卓についていた。しまった、塩むすび持ってくればよかった。

「あれっ清水、どうしたの、知里さん‥」
「東峰」
「ん?」
「期待してる」
「何が!?」

2017.01.26

prev | list | next