「‥‥‥」

いつもだったら2回目のアラームで起きるのに私の体はどうしてしまったというのか。しかも朝の5時。アラームセット時間は5時半。あと30分は寝れるじゃないかといつもだったら布団に潜り込む所だが、ウキウキしているせいか2度寝ができない気がして起きることにした。

昨日、男子バレー部の合宿でご飯を作るのを手伝ってこいという琴ちゃんの提案が、なんなく皆様からの賛同を得てしまった。初めこそ大丈夫なんだろうかとも思ったが、清水さんの協力もあり無事1日を終えた。そしてこれで終わりだと思っていた。‥ら、今日も朝からご飯の支度を任されたのだ。任されたと言うよりは、話の流れで受けてしまったのだが。なんということだろう。まさに給食のおばちゃんである。いやしかし、人に頼りにされるのはとても光栄だし、お役に立てると嬉しいものだ。

「眠い‥」

昨日の帰り際、清水さんに朝は8時に朝ご飯になっていると話を聞いて、ついでに朝練組もいるからお腹凄く減ってるだろうし、きっと作るのも大変だよという情報も聞いた。しかし朝からそんなに食べれるのかという疑問も残る。私は味噌汁1杯さえあれば朝は生きていける。決してダイエットなんてしていない。お腹は気になるけど。

学校お休みだし、Tシャツは学校指定のものじゃなくて大丈夫だよ。下のジャージは体操着のやつね。なんて、さらりと色々教えてくれる清水さんの言葉を思い出す。男子バレー部はしっかりしたマネージャーがいて安泰だなあ。私だったら絶対好きになっちゃうと思うんだけど、そこの所は大丈夫なんだろうか。清水さんの信者はいるみたいだったけど。約2名。












「ファ〜〜めっちゃ眠いっつーんだよ誰だ‥」
「おはようございまフす!!」
「うぉ!?はや、早いな!?」

合宿所、まだ7時前だが扉を叩いてしまった。そして噛んだ。迎えてくれたのはコーチ、またの名を坂ノ下商店の金髪お兄さん。眠いのかガラの悪さが際立っている気がする。若干暴言を吐きかけていたが私の顔を見て大層驚いているみたいだ。すみません、本当にすみません、眠りを妨げてしまってすみません!!!

「睡眠妨害してすみません!あの、今日もよろしくお願いします!!」
「清水の言ってた時間より随分早くねえか?」
「朝練もする人がいると聞いておりまして!お腹が減るのではないかと!!」
「ちょ、ボリュームダウンボリュームダウン」
「ぎゃっ、すみません‥‥それでその、おにぎりを多めに作っておこうかなと‥」
「マジか」

ぽかんとした顔に、私は少し不安になった。そういうことしない方がよかったんだろうか。コーチの顔色を伺うと、困ったような顔をしながら欠伸を噛み潰している。

「よッ余計なお世話でしたら言って貰えれば」
「いや、なんというか‥あれだな‥」
「?」
「こういうマネージャー業?みたいなことするの、知里さん初めてなんだろ?分かんないなりに色々あいつらのこと考えくれてありがとな」
「ヒいえっ!!」
「だけどな、無理はすんなよ。あと、練習見たかったら体育館来ていいから。東峰もいるし」
「!!!?!!?!!??」
「この間店で友達と喋ってたろ?東峰がどうとかって。青春だな。青春は大切にしろよ!」

青春は大切にしろよ。って。ていうか、私の顔覚えてたのかこの人!!!とても恥ずかしいし!!!別にあの時、東峰君が好きだと公言した覚えもないけど!!!も!!!だけど、コーチの助言は少し有難い所もあり、困惑ながらカタコトでアリガトウゴザイマスと伝えた所、眠気も吹っ飛ぶような怪しい笑みを返された。あ、ヤバイこれ勘違いされたやつだ。

「チクショー、青春ってむず痒いわー」

今度は大きな欠伸とともに玄関から離れていくコーチを呆然と視界に入れたまま固まること数分、隣の宿舎から"影山フライングすんな!!""うるせえボゲが!!"というとても清々しい朝には似合わない言葉が聞こえてきて慌てて扉を閉めた。どうやらバレー部が起きてきたようだ。元気だなあ。それよりもコーチに勘違いされたままになってしまっているわけだが、さてどうしようか。

2017.01.20

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