好きなものが音楽以外にもできるなんてこと、ぶっちゃけ言うと考えてなかったし思ってなかった。初めてのことに戸惑うなんてことはよくある話だが、そんな私の彼氏様が、普段はツンケンしているクセして2人だけだと意外にも甘えたさんだったなんてことが、余計に戸惑うし酷く可愛いものであった。

「も〜蛍ってば‥」
「少しくらい我慢してください」
「テレビ見えないじゃん!これ蛍出てるんでしょ、」
「僕の高校が決勝進出したってだけのニュースですよ」
「も〜!」

本日日曜日。というわけで、蛍は部活が終わってから、私は仕事が終わってから2人で会っているわけだ。2人で外に繰り出して出かけるだなんて、昔の私はよくそんなことをやっていたなと今になって恐ろしくなる。何もなくてよかったと思いつつ、今現在の状況に顔を熱くさせているのだ。私の部屋のソファで、無理矢理蛍の膝の上に座らせられて、彼の肩に顔を埋めて。顔熱いのも赤いのもバレないでほしい。ほんと、ほんとに。

どうやら彼が所属しているバレー部が、公式試合で良いところまでいっているらしい。そんな噂を聞いて、そしてテレビにちょっと映るって聞いてテレビを付けたのに、全然見ることができないのだ。ふわふわに抱きしめられているのはそりゃあもう嬉しいのだけど、この上なく恥ずかしいし、テレビ見せてほしい。てかアナタそういうキャラだっけ?と、困惑するくらい、心臓が煩く鳴り響いている。もしかしたら案外嫉妬深かったりして‥?とか色々考えてしまうけど、それはそれで見てみたい。妬いてるなんてところ想像が全くできないんだもん。

「蛍って今2年生だよね」
「?そうですけど」
「どうするの?進路とか、卒業後とか」
「‥特に考えてはないですね」
「バレーは?やんないの?」
「さあ‥やりたいなとは、思います」
「じゃあやりなよ」

やりなよ、と私が言ったのには、ちゃんと理由があった。蛍が静かに熱を上げているというバレーの試合を、私もちゃんと会場で見てみたいのだ。でも残念ながら今は見に行ける状況ではない。それに高校の公式試合を観戦に行くのは、正直結構敷居も高いのだ。いやこれ言い訳だけど。
蛍が卒業して、就職するのか進学するのかは分からない。だけど、蛍が今考えている未来の中に、少しでも私がいてくれればな、と思うのだ。だから、高校を卒業しても蛍がバレーを続けてくれれば、その試合を観れる機会が増えるし、‥なんというか、高校生の括りでなければ、私も試合会場に足を運びやすいというか。

「私、好きなことに熱燃やしてる人、凄く好きだよ」

ぽぽぽ、と熱かった顔は、先ほどよりも引いている。顔を上げたそこには、ぱちぱちと何度か瞬きしている蛍の顔があって、レンズ越しに私の顔も映り込んでいた。好きなことに熱を燃やしている人というのは、とても輝いてるということを私はよく知っている。だから自分自身もそうでありたいし、蛍もそうなら、もっと嬉しい。

「そうじゃなくても好きなのに?」

部活終わりの、ほんのり汗を掻いた匂い。じわりと滲んだ私の額の汗とは違う匂い。ヤケににやついた蛍の顔は嬉しそうで楽しそうで、「ああ、これ私からかわれてるんだな」ってなんとなく気付いてしまった。歳下の癖に。‥いや、もうそんなの関係ないのだ。だって、私達は好意を寄せ合う、両思い同士なのだから。

「そうだよ」
「‥なに急に素直になってるんですか」
「だ、ダメですか」
「いいけど。‥突然可愛いこと言うのやめてくださいね」

近付いてきた唇に身体を硬くしてしまう。付き合ってまだ2ヶ月くらいなのに、簡単に慣れるはずもない。だけど、蛍って実は優しいから、嫌がることはしないし、「大丈夫だから」ってぶっきらぼうながらエスコートしてくれる。ふわふわに抱きしめてくれていた手が後頭部に回って、唇を叩く舌先と同時に少し強めに押さえつけられれば、それが「もうちょっとだけいい?」っていう合図。そういうのも、歳下ながら、全部蛍に教えられたことだ。

「‥頑張ります。バレーも、あと‥色々と」

はふはふと息継ぎを繰り返していたのを見越してか、数秒だけゼロから距離を取った蛍が笑う。繋いだ銀色の糸がぷつりと切れたと思ったら、またぐぐっと詰め寄られて、またゼロになった。
20歳を過ぎての初恋相手が、スマホを拾ってくれた高校生だったなんて、我ながら中々の良いネタである。だけど、運命の人が誰かなんて誰にも分からないでしょう?

テレビがCMに切り替わって聞いたことのある音楽が流れてくる。タイトルは、ええと‥ほらアレ。蛍のことを思って書いた、私の最初の作品、つまり、貴方の為の気持ちを綴った処女作である。


ラブ・ミュージックアワード


2019.05.11 本編完結

prev | list | next