なんか最近、那津の様子が変だ。

恥ずかしがる様子とか、恥ずかしすぎて嫌がる様子は前からそうだったけど、それ以上に今は何かを考え込んで嫌がっている気がする。長いこと木兎さんと付き合ってきたせいか、色んなことをしっかり見て余計なことまで考えるようになったせいかもしれないけど、‥多分俺が今思っていることは間違いじゃない。那津は、あからさまに俺と触れ合うのを避けているように見える。もしかしたら、それと付き合うのを誰にも言いたくないっていうのは共通していることだったりして。

「‥赤葦お前聞いてる?」
「すみません聞いてなかったです」
「お前俺の愚痴をなんだと思ってんだよ」
「愚痴ですね」
「どうかしたんですか、赤葦さん」
「ツッキーも俺の愚痴をなんだと思ってんだ」
「愚痴でしょ」
「もうなんなのお前ら俺に優しくない‥」
「そんなしんどい顔するなよ黒尾〜」

いつもの飲み会は、場所を変えて行われていた。祝日を翌日に控えた日曜日、高校最高学年になった珍しくも部活が休みの月島を黒尾さんが東京に無理矢理呼び出して、とある小さな焼き鳥屋で飲み会。‥まあ、飲んでいるのはいつも通り黒尾さんと木兎さんだけだ。

木兎さんは相変わらず女っ気のある話が出てこない。対して黒尾さんは、最近付き纏われている女の子がいるとかなんとかで若干疲れ切っている。その愚痴を零している最中だったみたいだったけど、俺は俺で聞いてやれる余裕があんまりない。可愛い可愛い彼女のことの方が優先的に気になるのはしょうがないことだ。‥とばかりに木兎さんにバトンタッチした。

「月島は順調そうだね」
「‥まあ、お陰様で」
「ツッキーいい加減彼女の写真見せろよ!」
「嫌です。大体僕無理矢理連れてこられただけですよ。いちごパフェ頼んでいいですか」
「この甘党め」

月島には、高校2年生の時に付き合いだした彼女がいる。どういう人なのかと聞けば、煩い人、とだけしか答えが返ってこなかった。顔も名前も教えてくれない。このスンとした月島が付き合える人なのだ、きっとその人のことが好きで仕方ないんだろう。でも1つだけ疑問だった。俺は、付き合ったら周りに言いたいのはもちろんだけど、見せびらかして、俺のだからって少しでも牽制したいと思ってしまう。のに、‥月島はそういうのないんだろうか。まあ聞いたら俺に彼女がいるのバレるし、那津が嫌がるだろうから今は聞かないが。

「‥そういえば赤葦さんはそういう人まだいないんですか」

黒尾さんの愚痴をわははと聞いている木兎さんを眺めながらグラスに口をつけていると、隣の月島が思い出したように言った。そういう人、‥つまり彼女、みたいな人ってことか?いや、まあ、いるけど。‥とは言わずに、適当に濁した挙句「いると思う?」って逆に質問仕返した。いや、分かんないですけど赤葦さんならすぐ出来そうなのに。そんなことを言いながら、カルピスと氷の入ったグラスをからんと揺らした。高校生の分際で随分大人っぽくなってしまったものだ。‥よっぽど今付き合ってる人が良い人なのだろうか。

「大学生になってしれっと彼女でも作ってそうだなと思ったんですけど、意外と草食系なんですね」
「草食系に見える?結構ガツガツしてると思うけど」
「もしかして今話題のロールキャベツ男子ってやつですか?コワ〜イ」

その余裕はなんだ。彼女がいるって公言している余裕の現れなのか。なんだか少しだけむっとした。ガツガツしてるよ、でもそれを制されてしまうんだよ。理由が分かんないけど、恥ずかしい意外の理由でも困った顔をされて、悩んだ顔をされて。じわじわと喉から飛び出してきそうな愚痴を押しとどめて、ぐいとグラスの中身を煽った。

「月島こそロールキャベツなんじゃないの?涼しい顔して頭の中はエロいことでいっぱいだったりして」
「‥‥まあ、そういうこともしますしね」
「ぶっ」

ヤベ、思いっきり噴き出してしまった。俺が食べようとしていた食べ物の上にはギリギリかからなかったけど、木兎さんが最後に食べようととっていた肉の塊が濡れている。‥酔って黒尾さんに絡んでいるせいで全然気付いてないからまあいいか。それより月島からそんな話が出るなんてレアすぎて、そっちの方が緊急事態だ。

「‥人ってどんどん変わるんだね」
「‥‥話し振ったのそっちじゃないですか」
「彼女さん、恥ずかしがったりしないの。そういう雰囲気になって」
「赤葦さんはどうなんですか?」
「俺は嫌がられ‥‥、」
「なあんだ。やっぱり赤葦さん彼女いるんじゃないですか」

してやられた。簡単な言葉の罠に引っかかって、ぐうと口を噤む。こいつはかりやがったな。くすくすと笑う月島の顔が目に映って、少しばかり悔しかった。

2018.06.30

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