「‥目が痛い」
「清水さん泣いてる!?玉ねぎは少しだけ電子レンジでチンするといいよ、ラップして‥」

今、体育館では男子バレー部が、そして私と清水さんが合宿用施設の台所で絶賛奮闘中だ。スープとサラダとカレーということしか頭に入ってなかったが、よくよく考えれば量が半端じゃなかった。男子高校生10人以上の食事を作るのだから当たり前といえば当たり前なんだけど、まずこの鍋の大きさどうよ。この玉ねぎの量どうよ。そりゃあ清水さんも泣きますよね。

「と、とりあえずティッシュどうぞ‥!」
「有難う‥」

女の私から見ても美しい清水さんは、泣いている姿も美しい。というかこれ、誰かに見られたら私が虐めているようにしか見えないのでは‥?そんなことを考えている間に、じわりと涙を浮かべながらざくざくと玉ねぎを切り終えていく清水さん。真面目だ。

「あの」
「え?」
「知里さんはどうして食事の手伝いをしてくれようと思ったの?」
「ええ?」
「急に琴が来たから流れで手伝わせちゃってるけど‥本当によかったのかなって」

おお、なんていうか、割と今更だなあ。正直断る理由なかったし、断られなかったらいいかなって感じだったんだけど、どうして、と言われても。手元にあった人参を見て、慌てて作業を再開しながら考えてみる。

「‥東峰君がアタック打ってる所とか、ちょっと見てみたかったのかなあ‥」
「えっ東峰?」
「っぎゃあ!声に出た!?」
「えっ‥うん‥」

考えていたことがモロに口から出ていたらしく、清水さんが逸早く反応して、私も慌てて反応した。清水さんの玉ねぎを切っていた手が止まって、涙が辛うじて止まった瞳がこちらに向いている。驚きに固まった姿というのはこういうことを言うのだろうか。

「もしかして東峰のこと好きなの?」
「ちがっ‥いや、そういうのじゃないんだよ!見た目は怖いのに話したら凄く優しいからバレーしてる所があんまり想像できなくて!」
「そう。仲良いんだ」
「あ‥や、最近少し喋る機会があっただけだし‥知り合い程度かなあ‥」

1回一緒に帰っただけで、友達と呼べるにはまだ遠い関係だと思う。喋りたいなあとは思うけど、果たしてそのタイミングがあるのだろうか。ご飯作り終わったら私は帰るつもりだし、まさか泊まる訳にはいかないでしょう。うん。

「食べていくよね?」
「えっ」
「折角東峰もいるし食べていきたいでしょ?」
「いや、いや!皆のご飯無くなっちゃう!」
「知里さん、この量見て、余らないと思う?」

どうだろう。まず、玉ねぎと人参と、先に水にさらしていたじゃがいもの量を見て既に吐きそうになった。これにお肉が追加されるのだ。冷蔵庫見たくない。でも、男子高校生の胃。皆目検討がつかない。むしろ足りないかも‥?

「清水さんも食べてから帰る‥?」
「もちろん。片付けもあるから」

ハッ、そうか!
そこで気付いた。片付けがある。ということは、やはり私も残らなければという使命感。そんな顔をしていたのだろうか、私の顔を見て清水さんが満足そうに笑っていた。












「お前等清水と知里さんに感謝して食えよ」
「「「アザーッス!!!!」」」
「うっ!?」

体育会系の挨拶怖い。これでもかという声の大きさに背中が身震いした。

「もう‥煩くてごめんね、知里さん」
「あ、イエ‥」
「この量を作るの大変だったろうに‥清水も知里さんもありがとうなあ」

それと、私の隣には東峰君が座っている。どうやら清水さんの計らいらしい。目の前には菅原君、その隣には澤村君。清水さんは所詮誕生日席、というやつだ。凄く緊張してるのが分かる。スプーンが震えるかもしれない。ヤバイ。

「知里さん?」
「ひゃはいっ!?」
「うわっ!ごめん!?」
「なんで2人でビビりあってるんだよ」
「旭ずりー、俺も知里の隣がよかった」
「なんだよスガ、俺が隣じゃ不服なのか」
「今は不服」

菅原君が不貞腐れていると、澤村君は呆れたように笑っていた。

2016.12.30

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