「知里さん、本当にいいの?」
「や、あの、私はそのいいというか、逆にお邪魔になるのではというか、」
「邪魔じゃない。凄く助かるしとても有難いんだけど‥‥いいの?帰り、遅くなるよ」

放課後、琴ちゃんから無理矢理体育館に押し込められた私を待っていたのは、清楚系美人と名高い男子バレー部マネージャーの清水さんだった。待っていた訳ではなく、ただマネージャー業務をやっていただけではあるだろうが。‥ていうかそもそも私と清水さんに接点はない。琴ちゃんは副会長だからかなのか話す機会が割とあるらしく、少々驚く清水さんの元へと駆け寄り事情を説明しに向かった訳だ。私を連れて。

「じゃあキヨちゃん、来海のこと任せるね!」
「分かった。有難う、琴」

なんか任されたーー!!!
私の意思は無視されている。いや、別に嫌ではないんだけども本当にいいんだろうか。だってバレー部とか全然関係なのに、澤村君と菅原君と同じクラスなだけで関わりなんて何も‥

「今日の夜、カレーの予定なの。サラダとコンソメスープも作る予定で‥あ、先に武田先生と烏養コーチに挨拶しないといけないね」

ぱらりとメニュー表を見せながら淡々とそう告げる清水さん。うわわ。なんかおおごとになってきた。武田先生は分かるけど、烏養コーチ、とは。前テレビで見た全日本の男子バレーの監督めっちゃくちゃ怖かったけど、あんな感じだったらどうしよう‥。しかも前見たオレンジ髪の子とか多分バレー部だよね。黒髪の子と仲が悪そうだったけど、部活中もあんなだったらどうしよう‥。どうしよう‥‥。

「あの、清水さ‥」
「うちのバレー部なんだけど」

やっぱり断った方がいいかも、いいや、断るべきだ。そう考えた瞬間口が動いたけど、突然清水さんに話しかけられて止まった。

「新しい1年生も入ってきて、一悶着あって、前以上に煩くてしょうがないんだけど」
「?」
「でも、全員気合い入ってるから。知里さんもバレーボール、絶対ハマると思う」

凛とした目がとても美しい。そうやって清水さんは、薄っすらと笑った。

「「潔子さーーーーーんんん?!」」
「煩いぞ田中西谷ー。‥て、知里。もう来てたのか。わざわざありがとな」

物凄い音量の声と、澤村君の声が後ろから聞こえて振り向いた。思いの外距離が近くて驚いた2人の男子生徒は、目を丸くしながらこちらを見ている。何、何?!坊主君と、そのピンポイント前髪カラー君は何!?

「潔子さん‥この方は誰っすか‥?」
「まさか、まさか烏野にまたしても新しいマネージャーが入部希望‥?これがハーレム‥?」
「お前ら知里がビビってるからやめなさい」
「ごめんなー知里、煩い2年で」
「あ、あれっ、知里さん?」
「あじゅまね、あ、東峰君っ!」

めっちゃ噛んだ。あじゅまねって。慌てて言い直すと、ひょっこりと現れた3年生3人組は静かにお腹を抱えていた。お恥ずかしい。琴ちゃんが好きとか恋とかたくさん変なこと言うから無駄に意識してしまうじゃないか。あ、やっぱり東峰君が一番大きいんだな。縦にがっしりしてる感じ。澤村君もがっしりしてるけど。菅原君は‥んん、やはり2人に比べると女の子みたいだ。あ、失礼だとは思ってます。

「何やってんだお前ら」

次いで現れたハスキーボイスに私の脈はおかしくなった。あれだ、例えるなら、"群のボスが現れた"。金髪、オールバック、目つきがヤバイ、‥もみあげ。‥よくよく見れば坂ノ下商店の。

「‥‥!!?!」
「コーチ、今日からの合宿で調理の手伝いをしていただけるということで、同級生の知里来海さんに来ていただいているんですけど、合宿に参加させてもらっても大丈夫ですか?」
「潔子さんの‥!!」
「お友達‥!?」
「マジで!!?」

コーチの言葉遣いが思いの外フレンドリーで体が勝手に硬直した。こちらの変なコンビは清水さんの信者かな?‥そういえばちょっと待って。私結局承諾の返事はしていない気がするんだけど。

「知里さんが合宿中の食事作ってくれるの?」

そりゃあ心強いなあ清水。そう言いながらふわっと笑う東峰君に、私は完敗したのである。

2016.12.27

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